国語(現代文)が苦手な生徒の多くは、「読むのが遅い」という悩みを抱えています。一方で、「本文は最初から最後まで読んで、完璧に理解すべきだ」と思い込んでいて、「本文を一生懸命読んでいたら時間が無くなって、問題はほとんど適当に記号を選んだ」という悲惨なことになります。
本記事では、彼らに必要な「具体例を読み流す」読解テクニックを紹介します。
大事なところや中心文はどこなのか?
入試国語(現代文)は、趣味の読書ではありません。本文を隅から隅まで丁寧に読んで理解する必要はありません。
とはいえ、「大事なところに線を引きながら読みなさい」「中心文や中心段落を探しなさい」では、「大事なところ」や「中心文」がどこなのかが不明ですし、その探し方も人によってバラバラです。
「段落の最初や最後に中心文がある」と豪語する指導者もいます。しかし、論理構造がハッキリしている英語の論文ならまだしも、日本語の文章に同じような論理構造はありませんし、段落内に中心文があるのかどうかすら不明です。
また、「段落の最初や最後に中心文がある」と教わった生徒の多くは、各段落の最初の文と最後の文に線を引きまくりますが、それをしたところで読解の役には立ちません。
したがって、大事なところや中心文を探すよりも、具体例とそれ以外を読み分けていくのが合理的です。
具体例を読み分けるのは難しくない
具体例とそれ以外を読み分けるのは難しくありません。
具体例とは、広い範囲の事物や概念の一部を取り出して、その一部を詳しく説明することです。
たとえば、「哲学」がテーマの文章があります。この文章では、カントやニーチェの思想についても語られています。しかし、カントやニーチェの思想をいくら詳しく説明しても、テーマである哲学全体を説明し尽せません。ということは、カントやニーチェは哲学の具体例です。
このように、文章を読むときは、新しいことが書かれている箇所に出会うたび、「この箇所はテーマ全体の説明になっているかな?」と考えましょう。テーマ全体の説明になっていない箇所は具体例です。
具体例を読み流す2つのメリット
入試国語(現代文)で本文を読む場合、具体例は読み流しましょう。速く読めるだけでなく、次のメリットもあるからです。
- 具体例の中に分からない言葉があっても無視できる。
- 解答の根拠を探すとき、見るべき範囲を限定できる。
1と2についてそれぞれ解説します。
分からない言葉を無視できる
たとえば、「哲学」がテーマの文章の中に、ニーチェの「超人」が具体例として登場したとします。しかし、「超人」を知らないからといって、「『超人』って何?」と考え込む必要はありません。また、注釈に「超人」の説明があっても、設問で「超人」について問われていない限りスルーしましょう。「超人」について理解できなくとも、文章全体の趣旨を把握できるはずだからです。
このように、具体例の中に分からない言葉があっても、無視すれば精神的に楽です。
見るべき範囲を限定できる
国語(現代文)の大原則は「具体例は答にならない」です。
したがって、解答の根拠を探す場合、具体例の箇所を無視して、具体例以外の箇所をチェックすれば十分です。こうすれば、解答の根拠を探す時間も短縮できます。
具体例を読み流す練習をする
具体例を読み流す読解テクニックの練習として、寺田寅彦「科学上の骨董趣味と温故知新」の冒頭を読んでみましょう。
骨董趣味とは主として古美術品の翫賞(がんしょう)に関して現われる一種の不純な趣味であって、純粋な芸術的の趣味とは自ずから区別さるべきものである。古画や器物などに「時」の手が加わって一種の「味」が生じる。あるいは時代の匂というようなものが生じる。またその品物の製作者やその時代に関する歴史的聯想も加わる。あるいは昔の所蔵者が有名な人であった場合にはその人に関する聯想が骨董的の価値を高める事もある。あるいはまた単にその物が古いために現今稀有である、類品が少ないという考えに伴う愛着の念が主要な点になる事もある。この趣味に附帯して生ずる不純な趣味としては、かような珍品をどこからか掘出して来て人に誇るという傾向も見受けられる。この点において骨董趣味はまたいわゆる蒐集趣味と共有な点がある。マッチの貼紙や切手を集めあるいはボタンを集め、達磨(だるま)を集め、甚だしきは蜜柑の皮を蒐集するがごとき、これらは必ずしも時代の新旧とは関係はないが、珍しいものを集めて自ら楽しみ人に誇るという点はやはり骨董趣味と共通である。
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具体例とそれ以外を読み分ける
具体例とそれ以外を読み分けます。
まず、1文目は「骨董趣味」の説明ですから、本文のテーマ全体を説明しています。したがって、具体例ではありません。
2文目以降では、「骨董趣味」の種類を挙げていきます。これら1つ1つは「骨董趣味」全体の説明ではありません。したがって、2文目以降は具体例であると判断できます。
では、具体例はどこまででしょうか?
どんどん読み進めていくと、最後から2文目に「骨董趣味」という言葉が再登場します。ここは、「骨董趣味」全体の説明です。したがって、具体例ではありません。
最後の文にも「骨董趣味」という言葉がありますが、その前では「マッチの張り紙や切手」等の蒐集について書かれています。これらは「蒐集趣味」の具体例に過ぎません。
以上から、この文章で大切なところは、1文目と最後から2文目だけだと分かります。
具体例以外を要約する
具体例とそれ以外を読み分けた後は、文章を要約してみましょう。
寺田寅彦『科学上の骨董趣味と温故知新』の冒頭は、具体例以外の文はたったの2文です。この2文をまとめてつなげれば、次のような要約の完成です。
具体例を削ぎ落すと、ここまで簡潔に文章をまとめられます。このように、長い文章を要約する練習を続けていくと、読解力だけでなく、記述力も飛躍的に伸びます。
一生役立つテクニックを習得する
具体例を読み流す読解テクニックは、受験だけでなく、大学生や社会人になっても使えます。また、文章読解に限らず、長話の中から要点だけを聞き取る上でも役立ちます。
入試国語(現代文)の勉強を通して、一生役立つテクニックを習得しましょう。
トップ画像=フリー写真素材ぱくたそ / モデル=河村友歌
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