高校受験生の多くが、理科第二分野の天体を苦手とします。数年前まで星空を眺めて目を輝かせていた生徒たちも、天体分野を学び始めると、「星なんて見たくねえよ!!」となります(笑)。
そんな天体分野の問題を解説します。平成23年度都立高校入試の理科に出題された過去問です。
金星と地球との位置関係は?
平成22年8月のある日の午後6時ごろ、東京の南東の方角に月、南西の方角に金星が見えた。このうち、金星について双眼鏡を用いて観察を行い、見えた金星の形をスケッチした。図4は双眼鏡で観察したときの金星のスケッチであり、図5は太陽の周りを公転する金星と地球との位置の関係を模式的に示したものである。図4のスケッチをしたときの金星の位置を表したものとして適切なのは、図5のア~エのうちではどれか。
この問題は知識を必要としません。とはいえ、理屈が分からないために、勘で選択肢を選んだ受験生も多かったはず。本記事では、この問題を解くために必要な理屈を丁寧に図説します。
まずは、問題文の気になる文言を一つずつ検討していきますよ。
「平成22年8月のある日の午後6時ごろ」
時刻を表す言葉は要チェック!
「午後6時ごろ」は日没の時間帯を表します。つまり、昼から夜に変わる時間帯ですね。このことを踏まえて、金星を観察したときの地点を把握します。
問題の図では、親切に自転の向きまで書いてあります。太陽光の当たる側が昼、当たらない側が夜です。
また、東京は北半球にあります。問題の図では手前が北極になっているので、地球の見えている部分が北半球です。
以上より、問題文の時刻と観察地点(A地点とする)は下図の通りです。地球の自転によって、A地点は緑の円上を動きます。
「南西の方角に金星が見えた」
A地点での方角もチェック!
勘違いしやすいですが、「上が北!」ではありませんからね!
確かに、多くの地図では上が北です。しかし、天体分野の問題を解く際は、図から東西南北を判断してください。
問題の図では、これまた北極の位置が明示されています。当然、北極に向かう方角が北です。
以上より、A地点における東西南北と南西の方角を描き込むと下図の通りです。
双眼鏡で見えた金星の形は?
時刻と方角を踏まえて考えると、正解の候補はアとイに絞られます。その上で最後に、見えた金星の形を検討します。
※平成28年度の大問3[問1]でも、金星の見え方に関する問題が出題されました。しかし、地球から金星への補助線の引き方に関して、都教委の【考え方】が「誤り」であると地学の専門家が批判しています。本記事の作図は都教委の方針に従うことにし、以下のように図示します。(平成28年3月14日・図を修正)
南西の方角でアの金星を観察すると、下図の赤で塗った部分が見えます。
このときの金星は、太陽に照らされている部分が影になっている部分より大きいですね。したがって、アの金星を双眼鏡で見ると下図の形になります。これは図4の形とは一致しません!
同様にイの金星について考えます。
このときの金星は、太陽に照らされている部分と影になっている部分が半分ずつです。したがって、イの金星の形は半月型で図4に一致します。以上より、正解はイです。
理科を暗記で終わらせないために
今回解説した問題に限らず、都立高校入試の理科では、理屈で考えることを要求する問題がしばしば出題されます。知識だけでは解けないため、「理科は暗記だ!」と思い込んでいる受験生たちは見事に撃沈します。
そのため、図を描いたり、現象を文字で説明したりして、理科を暗記で終わらせないように工夫することが大切です。
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