仏教史は、中学社会の歴史分野で頻出です。もちろん高校入試でも一大テーマとなります。しかし、教科書での扱いは断片的。メインである政治史の後に、文化として少しだけ紹介されて終わりです。
多くの中学生は文化史を真面目に勉強しません。そのため、高校入試で仏教史が出題されると、高校受験生の大半はあえなく撃沈します。そうならないように、仏教史をまとめてみましょう。
教科書レベルの仏教史の流れを把握する
中学社会の教科書に載っているレベルの仏教史を説明します。参考にしたのは教育出版『中学社会 歴史』です。
6世紀前半 (古墳時代) |
仏教伝来。百済から倭に、仏像や経典が贈られる。 |
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6世紀後半~7世紀 (飛鳥時代) |
蘇我馬子や聖徳太子が政治のよりどころとして仏教を重視。 推古天皇のころ、日本で最初の仏教文化(飛鳥文化)がおこる。 |
8世紀 (奈良時代) |
聖武天皇は仏教の力で国家を守ろうと考える。 地方には国ごとに国分寺と国分尼寺を、都には東大寺を建てる。 |
9世紀 (平安時代前期) |
天台宗と真言宗が開かれる。 個人の願いごとのために儀式や祈りを行い、天皇や貴族の信仰を集める。 |
10世紀 (平安時代中期以降) |
浄土信仰が貴族を中心に受け入れられる。 阿弥陀仏の像や阿弥陀堂が盛んに作られる。 |
12~13世紀 (鎌倉時代) |
鎌倉仏教誕生。民衆の間にも仏教が広がる。 禅宗は武士を中心に広まり幕府の保護も受ける。 |
14~16世紀 (室町時代) |
浄土真宗や日蓮宗が民衆の間で信者を増やす。 禅宗は幕府の保護を受けて政治的な役割も果たす。 15世紀後半には、浄土真宗信者らが一向一揆をおこす。 |
17世紀~ (江戸時代) |
江戸幕府がキリシタン摘発のため、宗門改めを実施。 |
19世紀~ (明治時代) |
明治政府により神仏分離令が出され、仏教排斥の運動が起こる。 |
ここまでを更に簡略化してみます。
- 古墳時代:仏教伝来
- 飛鳥時代:政治のために仏教重視
- 奈良時代:国家を守るために信仰
- 平安時代前期:個人のための儀式や祈りへ
- 平安時代中期以降:貴族を中心に浄土信仰
- 鎌倉&室町時代:民衆や武士への拡大
- 江戸時代:民衆統治のために江戸幕府が利用
- 明治時代:明治政府の神仏分離令、仏教排斥運動へ
「仏教」というテーマに絞ってみると、歴史の流れをここまですっきりまとめられます。
都立高校入試の過去問で仏教史を確認する
実際に都立高校入試社会で出題された問題を見てみましょう。次の問題は、2007年の第4問〔問1〕です。
「大陸から仏教が伝わると、仏像や仏具などが盛んに制作されるようになった。」とあるが、奈良時代に制作された仏像などについて述べているのは、次のア~エのうちではどれか。
ア 法然が新しい仏教の教えを広める一方、戦乱の被害を受けた奈良の寺院の復興が幕府により進められるなかで、東大寺南大門の金剛力士像が、運慶・快慶らによって制作された。
イ 朝廷の保護を受けて仏教が急速に発展し、皇族や豪族によって寺院や仏像がつくられるようになるなかで、法隆寺金堂の釈迦三尊像が、止利仏師によって制作された。
ウ 社会の混乱が続き、阿弥陀仏にすがって死後に極楽浄土へ生まれ変わろうとする信仰が広まるなかで、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像が、定朝によって制作された。
エ 伝染病の流行やききんが起こるなど社会の不安が増すなかで、天皇は仏教の力で国家を守ろうとして、国ごとに国分寺と国分尼寺を、都には東大寺を建て、大仏を制作させた。
時代を表すキーワードから考える
都立高校入試の社会では、時代を表すキーワードを選択肢中から探すことで答を選べます。
ア、「法然」→鎌倉
イ、「法隆寺」→飛鳥
ウ、「平等院鳳凰堂」→平安
エ、「国分寺と国分尼寺」→奈良
したがって、答はエ
ちなみに、都立高校入試の社会では、各選択肢を「時期の古いものから順に記号で並べよ。」という出題パターンも定番です。そのため、正解を1つ選べばいいだけの問題でも、各選択肢を時代順に並べてみるといいでしょう。
選択肢を時代順に並べるとイ→エ→ウ→アです。
仏教史の観点からも正解できる
上の問題はキーワードから正解できますが、仏教史の観点からも時代がわかります。
ア、「法然が新しい仏教の教えを広める」→「新しい仏教」といえば鎌倉仏教
イ、「朝廷の保護を受けて仏教が急速に発展し」→政治のための仏教重視なので飛鳥時代
ウ、「死後に極楽浄土へ生まれ変わろうとする信仰」→浄土信仰なので平安時代
エ、「仏教の力で国家を守ろう」→奈良時代
細かい用語を覚えていなくても、仏教史を大雑把に理解していれば、問題を解くことが可能です。
テーマ史学習にはさまざまなメリットがある
「仏教史」のように、特定の物事に着目した歴史をテーマ史といいます。テーマ史学習には次のメリットがあります。
- 高校入試で頻出だから。
- 断片的な知識を体系的に理解できるから。
- 様々なテーマを扱いながら、日本史の全体像を何度も復習できるから。
- 政治史・人物史に偏らない歴史を学べるから。
テーマ史学習では、生徒たちが見落としやすいポイントも見えてきます。
教育出版『中学社会 歴史』を読んでみましょう。P33には次の記述があります。
8世紀の中ごろ、聖武天皇は仏教の力で国家を守ろうと考え、地方には国ごとに国分寺と国分尼寺を建て、都には大仏をまつる東大寺を建てました。
「8世紀」「聖武天皇」「国分寺と国分尼寺」「東大寺」というキーワードは多くの生徒たちが覚えています。そんな彼らでも「仏教の力で国家を守ろう」の記述は大抵読んでいません。
そのため、彼らは一問一答形式の問題で得点できても、年表問題や並べ替え問題、論述問題になると失点します。奈良仏教・平安仏教・鎌倉仏教の区別がついていないからです。
各時代の仏教の区別を用語の暗記で片づけようとすると混乱します。それよりも、仏教の流れを概観しながら「なぜ?どうして?」と考える方がイメージも湧きやすくなります。
入試によく出るテーマ史をノートにまとめる
仏教史以外で入試によく出るテーマ史は、宗教、農業、家畜、通貨、学問、文学など、それほど多くありません。
これらのテーマをノートにまとめ、「時代ごとの大きな違いは何か?」「なぜそれが流行したのか?」などを書き込んでいきましょう。このまとめノートが入試本番まで役立つ自分だけのオリジナル参考書になります。
トップ画像=写真AC
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