2016年センター試験の古文では、文法問題として「の」の用法に関する文法問題が出題されました。
センター試験に限らず、「の」の用法は古典文法問題の定番です。さらには、高校入試でも、口語文法(国文法)の問題としてしばしば見かけます。「の」の用法は、古典でも現代文でも頻出の重要文法事項です。
一方で、「の」の用法を苦手とする生徒たちが少なくありません。
「の」を文法的に考える
次の例文を見てください(古典文法も口語文法も同じなので、以下の解説で取り上げる例文は口語文にしました。)。
リンゴの大きなのが、私の植えた木の上になっていた。
下線の引いてある4つの「の」。それぞれの説明を、次の文法用語の中から選んでみましょう。
ここで多くの生徒たちは混乱します。そもそも文法用語を理解していないからです。というわけで、文法用語を1つ1つ丁寧に検討してみましょう。
以下の説明に登場する「体言」は名詞・代名詞で、「用言」は動詞・形容詞・形容動詞です。
1. 主格(主語と述語の関係を表す)
主語と述語の関係を表す「の」です。
彼の描いた絵を見た。
この文の「の」の前後に要注意です。
「彼の描いた」では、「描いた」の主語に当たるのは「彼の」です。つまり、「彼の描いた」は「彼が描いた」と言い換えられます。「が」に言い換えられる「の」を主格といいます。
また、“体言+「の」+用言”の場合、その「の」は主格である可能性が高いです。「彼の描いた」についても、「彼」は代名詞で「描く」は動詞です。
2. 連体修飾格(修飾・被修飾の関係を表す)
修飾・被修飾の関係を表す「の」です。
犬の尻尾を踏んだ。
この文の「の」の前後にも要注意です。
「犬の尻尾」では、「犬の」は「尻尾」を修飾します。
ここで用いられる「の」は、他の言葉に言い換えられません。言い換え不能の「の」が連体修飾格です。
また、“体言+「の」+体言”の場合、その「の」は連体修飾格である可能性が高いです。「犬の尻尾」についても、「犬」「尻尾」は名詞ですね。
3. 準体格(体言の代用)
別名「体言の代用」と呼ばれる「の」です。「体言の代用」という表現が分かりづらいですが、とりあえず例文を見てみましょう。
君の本は面白いが、僕のは面白くない。
最初の「の」は連体修飾格ですが、2つ目の「の」が準体格です。「僕のは面白くない」は、「僕のものは面白くない」と言い換えられます。「もの」に言い換えられる「の」を準体格といいます。
「の」の直後に助詞(「が」「は」「を」など)が続く場合、その「の」の多くは準体格です。「僕のは面白くない」についても、「の」の後ろに助詞「は」が続いています。
4. 同格(直前の名詞の言い換えを続ける)
直前の名詞の言い換えが「の」の後に続きます。
猫の白い方を飼いたい。
この文では、“猫=白い方”という関係が成り立ちます。「猫の白い方」は、「猫で白い方」と言い換えられます。「で」に言い換えられる「の」が同格です。
「の」の識別の実践例
改めて次の例文を考えましょう。
リンゴの大きなのが、私の植えた木の上になっていた。
4つの「の」は、主格・連体修飾格・準体格・同格のどれに当たるのでしょうか?
1つめの「の」(同格)
1つめの「の」は、「で」に言い換えられます。
したがって、1つめの「の」は同格です。
2つめの「の」(準体格)
2つめの「の」は、「もの」に言い換えられます。
したがって、2つめの「の」は準体格です。「の」の後ろには、助詞「が」が続いています。ここからも同格だと判断できます。
3つめの「の」(主格)
3つめの「の」は、「が」に言い換えられます。
したがって、3つめの「の」は主格です。“代名詞「私」+「の」+動詞「植えた」”の形からも主格と判断できます。
4つめの「の」(連体修飾格)
4つめの「の」は言い換え不能です。
したがって、4つめの「の」は連体修飾格です。“名詞「木」+「の」+名詞「上」”の形からも連体修飾格と判断できます。
2016年センター試験の古文にチャレンジ
最後に、2016年センター試験の古文で出題された、「の」の用法に関する問題を検討します。この年の古文は『今昔物語集』からの出題でした。平易な言葉で書かれた説話だったため、多くの大学受験生が「解きやすい」と感じたようです。
「の」の用法は問2に出題されました。「破線部a~eの『の』を、意味・用法によって三つに分けると、どのようになるか。」というグループ分け問題でした。本文中の「の」を一つ一つ見ていきましょう。
a 鬼どもの我に唾を吐きかけつる
a 鬼どもの我に唾を吐きかけつる
「の」の前後が、名詞「鬼ども」と代名詞「我」なので、連体修飾格だと思う受験生もいたことでしょう。しかし、「鬼どもの我」では、「鬼たちの中の私」という意味になって不自然です。そのため、aの「の」は連体修飾格ではありません。
「鬼どもの」は「吐きかけつる」を修飾すると考えるのが自然です。つまり、“名詞「鬼ども」+「の」+動詞「吐きかけつる」”の形になります。また、「鬼たちが吐きかけた」と、「の」を「が」に言い換えられます。したがって、aの「の」は主格です。
b 男の傍らに立ちて
b 男の傍らに立ちて
“名詞「男」+「の」+名詞「傍ら」”の形で意味的にも不自然さがありません。したがって、bの「の」は連体修飾格です。
c 童のいと恐ろしげなる
c 童のいと恐ろしげなる
cの「の」の前後は、「童=いと恐ろしげなる」の関係です。「の」は「で」に言い換えて、「子どもで恐ろしい子どもが」と訳すと良いでしょう。したがって、cの「の」は同格です。
ちなみに、古文で同格「の」がある場合、直後に来る用言の連体形に体言が続かないという特徴があります。
c「童のいと恐ろしげなる、」は、形容動詞「恐ろしげなり」の連体形「恐ろしげなる」の直後に体言がありません。「の」の直前の「童」を「恐ろしげなる」の直後に補って、「恐ろしげなる童」と考えるべき箇所です。
d 扉の迫の人通るべくもなきより
d 扉の迫の人通るべくもなきより
1つめの「の」は、“名詞「扉」+「の」+名詞「迫」”の形より、連体修飾閣で問題ありません。一方、破線部dの「の」は、“名詞「迫」+「の」+名詞「人」”の形から連体修飾格だ、と早合点してはいけません。「迫の人」を「隙間の人」と訳しては意味が通じません。
ここでは、「扉の迫(隙間)=人通るべくもなき(人が通れない)」と考え、「の」を「で」に言い換えます。したがって、dの「の」は同格です。
d「通るべくもなきより」も、形容詞「なし」の連体形の直後に助詞「より」が続きます。「通るべくもなき迫より」と「迫」を補って考えます。
e 男の手を取りて
e 男の手を取りて
“名詞「男」+「の」+名詞「手」”の形で意味的にも不自然さがありません。したがって、eの「の」は連体修飾格です。
「の」をグループ分けすると?
以上を踏まえてa~eの「の」をグループ分けすると〔a〕〔b・e〕〔c・d〕です。このグループ分けに合致する選択肢は1です。
「の」の用法をマスターしよう
「の」の用法は、古典文法問題としても口語文法問題としても頻出です。品詞の形から攻める手法と、「が」「で」などに言い換える手法の両方を駆使して、確実に得点できるようにしましょう。
また、作文などでも、「私が買った本が面白い。」のように「が」が連続する場合、修飾部に含まれる「が」を「の」に書き換えましょう。具体的には、「私が買った本が面白い。」を「私の買った本が面白い。」とします。こうすることで、文のリズムが整い、読者が主述関係を読み誤らなくなります(「私が買った本が面白い。」だと、「面白い」のは「私」か「本」かが分かりにくくなります)。
「の」の用法をマスターすると、古文でも現代文でも役に立ちます。
トップ画像=写真AC
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