中学受験算数の計算問題では、まともに通分するととても大変な分数の足し算が出ることがあります。このような問題の解き方をわかりやすく解説します。
部分分数分解を利用しよう
【例題1】次の計算をしなさい。
\(\frac{1}{6}\)+\(\frac{1}{12}\)+\(\frac{1}{20}\)+\(\frac{1}{30}\)
【例題1】は、分母の最小公倍数が60だとすぐにわかれば、通分して計算してもそれほど大変ではありません。実際に通分して計算してみましょう。
もちろん、これで正解です。しかし、ただ通分するだけではおもしろくないので、計算の工夫をしてみましょう。
それぞれの分母をかけ算で表します。
規則性があることに気づきましたか?
規則性とは、2, 3, 4, 5, 6という順番で分母に数字が並んでいることです。このタイプの分数の足し算は、次のように式を書きかえられます。
この式では、\(\frac{1}{3}\)~\(\frac{1}{5}\)が+と-で0になって消えます。残った分数だけを計算しましょう。
結局は通分しますが、分母を60にそろえるより楽です。
以上のように、分数のかけ算を分数の足し算に書きかえることを「部分分数分解」といいます。
\(\frac{1}{2×3}\), \(\frac{1}{15×16}\), \(\frac{1}{99×100}\)のように、分母が連続する整数のかけ算になっている分数の部分分数分解は次の通りです。
たとえば、\(\frac{1}{2×3}\)=\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{3}\)、\(\frac{1}{15×16}\)=\(\frac{1}{15}\)-\(\frac{1}{16}\)、\(\frac{1}{99×100}\)=\(\frac{1}{99}\)-\(\frac{1}{100}\)です。
部分分数分解を利用すれば、次のように複雑な分数の足し算も簡単になります。
\(\frac{1}{1×2}\)+\(\frac{1}{2×3}\)+\(\frac{1}{3×4}\)+…+\(\frac{1}{98×99}\)+\(\frac{1}{99×100}\)
=\(\left(\frac{1}{1}-\frac{1}{2}\right)\)+\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{3}\right)\)+\(\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{4}\right)\)+…+\(\left(\frac{1}{98}-\frac{1}{99}\right)\)+\(\left(\frac{1}{99}-\frac{1}{100}\right)\)
=1-\(\frac{1}{100}\)
=\(\underline{\frac{99}{100}}\)
分母が2つの整数のかけ算のときを考えよう
\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{3}\)を通分して計算すると、\(\frac{3}{2×3}\)-\(\frac{2}{2×3}\)=\(\frac{1}{2×3}\)です。このことから、\(\frac{1}{2×3}\)=\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{3}\)が正しいとわかります。
では、\(\frac{1}{2×4}\)はどのように部分分数分解できますか?
とりあえず引き算の式\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{4}\)を作って通分してみましょう。
\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{4}\)=\(\frac{4}{2×4}\)-\(\frac{2}{2×4}\)=\(\frac{2}{2×4}\)です。このことから、\(\frac{2}{2×4}\)=\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{4}\)が成り立ちます。
\(\frac{2}{2×4}\)に\(\frac{1}{2}\)をかけると分子の2が1になるので、\(\frac{1}{2×4}\)=\(\frac{1}{2}\)×\(\frac{2}{2×4}\)=\(\frac{1}{2}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{4}\right)\)、つまり\(\frac{1}{2×4}\)=\(\frac{1}{2}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{4}\right)\)です。
同じように考えると、\(\frac{1}{2×5}\)はどのように部分分数分解できますか?
\(\frac{1}{2}\)-\(\frac{1}{5}\)=\(\frac{5}{2×5}\)-\(\frac{2}{2×5}\)=\(\frac{3}{2×5}\)です。
\(\frac{3}{2×5}\)に\(\frac{1}{3}\)をかけると分子の3が1になるので、\(\frac{1}{2×5}\)=\(\frac{1}{3}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{5}\right)\)です。
部分分数分解を整理すると次の式になります。
たとえば、\(\frac{1}{2×6}\)=\(\frac{1}{4}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{6}\right)\)、\(\frac{1}{2×7}\)=\(\frac{1}{5}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{7}\right)\)、\(\frac{1}{2×8}\)=\(\frac{1}{6}\)×\(\left(\frac{1}{2}-\frac{1}{8}\right)\)、…です。
ただ、\(\frac{1}{A×B}\)=\(\frac{1}{B-A}\)×\(\left(\frac{1}{A}-\frac{1}{B}\right)\)を覚える必要はありません。とりあえず引き算の式を作り、通分して分子を確認すれば、引き算の式にどんな分数にかければいいかがわかるからです。
【例題2】次の計算をしなさい。
\(\frac{1}{1×3}\)+ \(\frac{1}{3×5}\)+\(\frac{1}{5×7}\)+\(\frac{1}{7×9}\)
\(\frac{1}{1}-\frac{1}{3}\)=\(\frac{2}{1×3}\)で分子が2になるので、\(\frac{1}{1×3}\)の部分分数分解では、引き算の式\(\frac{1}{1}-\frac{1}{3}\)に\(\frac{1}{2}\)をかければいいことがわかります。
分母が3つの整数のかけ算のときを考えよう
\(\frac{1}{2×3×4}\)はどのように部分分数分解できますか?
引き算の式\(\frac{1}{2×3}\)-\(\frac{1}{3×4}\)=\(\frac{4}{2×3×4}\)-\(\frac{2}{2×3×4}\)=\(\frac{2}{2×3×4}\)です。
\(\frac{2}{2×3×4}\)に\(\frac{1}{2}\)をかけると分子の2が1になるので、\(\frac{1}{2×3×4}\)=\(\frac{1}{2}\)×\(\left(\frac{1}{2×3}-\frac{1}{3×4}\right)\)です。
2×3×4の真ん中の整数3を引き算の式の両方に残すのがポイントだとわかります。
上の式も覚える必要はありません。その場で考えればわかることです。
【例題3】次の計算をしなさい。
\(\frac{1}{1×3×5}\)+ \(\frac{1}{3×5×7}\)+\(\frac{1}{5×7×9}\)
\(\frac{1}{1×3}-\frac{1}{3×5}\)=\(\frac{5}{1×3×5}-\frac{1}{1×3×5}\)=\(\frac{4}{1×3×5}\)で分子が4になるので、\(\frac{1}{1×3×5}\)の部分分数分解では、引き算の式\(\frac{1}{1×3}-\frac{1}{3×5}\)に\(\frac{1}{4}\)をかければいいことがわかります。
部分分数分解を理解して使いこなそう
部分分数分解は「キセル算」とも呼ばれます。
キセル(煙管)とは、刻みたばこを吸うのに使う道具です。下の図のように、金属製の吸い口と雁首(がんくび)が竹製の羅宇(らう)でつながっています。
乗車駅と降車駅の切符を使って中間を無賃乗車することを「キセル乗車」といいます。キセル乗車は、乗車駅と降車駅でだけ「金(運賃)」を払う不正行為を、吸い口と雁首にだけ「金属」が使われているキセルの構造とかけてできた言葉です。
部分分数分解では、中間にある分数を消してしまいます。これがキセル乗車と似ているので「キセル算」なのでしょう。
もちろん、キセル算は無賃乗車と違って不正行為ではありません。むしろ、中学受験生なら知っておくべき計算の工夫です。仕組みを理解して使いこなせるようにしましょう。
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