中学入試や高校入試の社会では、時々マニアックなテーマが問題になっていることがあります。たとえば、有名でない国の気候や教科書に載っていない人物などです。
しかし実は、こういう問題が出題されたからといって、重箱の隅をつつくような知識を求められているわけでないことがほとんどです。無理やり点数差をつけるために悪問を出題する難関私立大学とは異なります。
今回は、「マニアックな難問」をどう解いていくべきかを解説します。
郷土料理の知識が無いと正解を選べない?
問1、郷土料理について説明した文としてまちがっているものを次から1つ選び、記号で答えなさい。
ア、滋賀県のふなずしは、淀川の水源である琵琶湖でとれるニゴロブナを飯と塩につけて作られ、魚肉のたんぱく質が分解された発酵食品であるため独特の香りがある。
イ、宮城県の笹かまぼこは、暖流の親潮と寒流の黒潮がぶつかる三陸沖でとれるヒラメなどを保存する目的で、そのすり身を木の葉の形に焼いたものが始まりだとされる。
ウ、鹿児島県のさつま汁は、鶏肉を野菜などと一緒に煮込んだみそ汁で、二毛作が盛んな筑紫平野などで米の収穫後に栽培される麦を原料とする麦みそがよく使われる。
エ、北海道の石狩鍋は、サケのぶつ切りとタマネギやキャベツなどの野菜を材料とするみそ味の鍋料理で、現在下流に稲作地帯が広がっている石狩川が名前の由来である。
この問題を見て「郷土料理なんて知らない!」と拒否反応を示した受験生は考え方を改める必要があります。なぜなら、問1は、「郷土料理」の知識を問うているように見せかけて、実は地理分野の基本的な知識を問うているに過ぎないからです。したがって、問1を解くときは、「郷土料理に関する説明は正しい」という前提で、それ以外の部分の正誤判断をすることになります。
アには、「淀川の水源である琵琶湖」とあります。この記述は正しいので、「他の部分にまちがいはない」と判断しましょう。もし、アをまちがいにする場合、「淀川」を別の川の名前にしたり、「琵琶湖」を別の湖の名前にしたりします。「四万十川の水源である琵琶湖」などとすれば、まちがいの選択肢になります。
イには、「暖流の親潮と寒流の黒潮がぶつかる三陸沖」とあります。この記述は「親潮」と「黒潮」が逆なのでまちがいです。正しくは「暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかる三陸沖」です。「笹かまぼこ」について知っているかどうかは全く関係ありません。
同様に、ウは「二毛作が盛んな筑紫平野などで米の収穫後に栽培される麦」をチェックして正しいと判断します。まちがいにするなら「二毛作」を「二期作」にすることが考えられます。
エは「現在下流に稲作地帯が広がっている石狩川」をチェックして正しいと判断します。「石狩川」を別の川の名前にすれば、まちがいの選択肢を簡単に作れます。
このように正誤判断を行えば、郷土料理の知識が一切無くても正解のイを選べるはずです。
江戸時代の乗り物についても覚えるべきなの?
次に、歴史分野の問題を解いてみましょう。
問2、江戸時代の乗り物について説明した文として正しいものを次から1つ選び、記号で答えなさい。
ア、徳川吉宗が作った参勤交代では、人がかつぐ乗り物である駕籠に乗って大名が江戸と領地を移動した。
イ、身分の高い女性が徳川家の子孫である譜代大名へ嫁入りするときは、女乗物が使用された。
ウ、国内の海運で広く使われた弁才船は、小林一茶が活躍した元禄時代の末期から大型化していった。
エ、各地の川で貨物の輸送に利用された高瀬船は、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』にも描かれた。
※漢字の読み方…駕籠(かご)、女乗物(おんなのりもの)、弁才船(べざいせん)、高瀬船(たかせぶね)
よほどの時代劇オタクでもない限り、江戸時代の乗り物について詳しい受験生はいないでしょう。この問題も問1と同じように、「乗り物に関する説明は正しい」という前提で、それ以外の部分で正誤判断します。
アには、「徳川吉宗が作った参勤交代」とあります。参勤交代を作ったのは3代将軍の徳川家光なのでまちがいです。徳川吉宗は8代将軍で、享保の改革を行いました。
イの「徳川家の子孫である譜代大名」は、「譜代大名」を「親藩」とすべきなのでまちがいです。譜代大名は、徳川家に代々仕えてきた大名のことです。
ウには、「小林一茶が活躍した元禄時代の末期」とあります。小林一茶は化政文化を代表する俳人なのでまちがいです。元禄時代に活躍した俳人は松尾芭蕉です。
エの「葛飾北斎の『冨嶽三十六景』」は正しく、他の選択肢がまちがいなので、正解はエだとわかります。
高校で学ぶ政治経済の知識が必要になる?
最後に、公民分野から1問出題します。政治経済を勉強した高校生なら楽勝でしょうが、小学生や中学生は正解を選べるでしょうか?
問3、最高裁判所が出した違憲判決について説明した文として正しいものを次から1つ選び、記号で答えなさい。
ア、一票の格差をもたらす比例代表制が違憲とされたことがあるが、政治の混乱を防ぐために選挙自体は無効とならなかった。
イ、以前は海外に住む日本人に選挙権が認められていなかったが、内閣が適切な立法を行わなかったことを理由に違憲とされた。
ウ、夫婦の姓に関する民法の条文が違憲とされたため、現在は結婚後に夫と妻が異なる姓を名乗ることができるようになった。
エ、政治と宗教を分けなければならないとする政教分離の原則に基づいて、県知事が神社に金銭を納めた行為が違憲とされた。
この問題も、最高裁判所が出した違憲判決について知っているかどうかは関係ありません。問1や問2と同じような観点で選択肢をチェックしていきましょう。
アには、「一票の格差をもたらす比例代表制」とあります。一票の格差は、1人の議員が選挙で当選するために必要な得票数が選挙区によって違うことをいいます。たとえば、A選挙区では200票で当選できるのに、B地区では1000票で当選できる場合、A選挙区の一票の方がB選挙区の一票よりも価値があることになります。この例からもわかる通り、一票の格差が問題となるのは選挙区制で、比例代表制ではありません。
イには、「内閣が適切な立法を行わなかった」とあります。立法を行うのは国会の仕事ですから、「内閣」がまちがいです。
ウは、常識的に考えれば「おかしい」とわかるでしょう。離婚した場合を除いて、結婚後に異なる姓を名乗っている夫婦はいますか?将来はどうなるかわかりませんが、2019年の時点ではウは正解になりません。
ア・イ・ウがまちがいなので、消去法で正解はエだとわかります。
エは、有名な愛媛玉串料(たまぐしりょう)訴訟の最高裁判決です。愛媛県知事が靖国神社などに対して公費から玉串料(=神社に祈祷を依頼する際に納める金銭)を支払いました。これに対して、浄土真宗の僧侶を団長とする市民団体が、信教の自由を保障する日本国憲法20条と政教分離を定めた89乗に基づいて訴訟を起こしました。エの選択肢にある通り、愛媛県知事の行為は、最高裁によって違憲であるとされました。高校の政治経済では、愛媛玉串料訴訟についても学ぶでしょう。
「社会は暗記だけでは解けない」という真実
中学入試や高校入試の社会の「難問」が全て、今回紹介した方法で解けるとは限りません。しかし、実際に、問1・2・3のような問題が出題されていることを知った上で、「基本的な知識から解けないかな?」と考える習慣を持つことは大切です。
たとえば、2019年の開成中学入試の社会では、大問2の問4でロシアの都市について問われました。しかし、「ロシアは東西に長い国だから、標準時が1つであるはずがない」と考えられれば、ロシアの都市を全く知らなくても正解を選べたはずです。
難関中学や難関私立高校を受験するからといって、「細かいことまで全て覚えよう」という丸暗記では太刀打ちできません。「社会は暗記科目だ」は正しいですが、「社会は暗記だけでは解けない」というのも真実です。
トップ画像=写真AC
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