ライターの仕事には、過去に書かれた文章を短く要約したり、情報をつけ足して膨らませたりする「リライト」があります。
リライトというと、「他人が書いた記事のパクリ」というイメージがあるかもしれません。実際「パクリとわからないように、どこそこの記事をリライトしてください」というグレーな案件もあります。
一方、グルメガイドなどの改定に伴って前の版の文章を適切な字数に書き直すのもリライトです。当サイトで解説するのは、こちらの真っ当なリライトです。そして、今回は、長い文章を短くまとめるコツ6選を紹介します。
300字を150字にするにはどうすればいい?
本サイトの管理人であるみみずくも、書籍などのリライトの仕事を何度か引き受けたことがあります。その中の一つがエイ出版社『持ち歩ける 札幌本』です。
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実際に僕が行ったリライトの手順を、次の300字(297字)を150字まで短くするという設定で再現してみます。
本所の「燈無蕎麦」は、こだわりのそばと店内の雰囲気が自慢です。人気メニューの二八そばは、国産で無農薬の厳選されたそば粉と小麦粉から作られます。コシのあるそばは、そばつゆに三分の一だけつけてすするのがオススメ! そばが喉をツルツルッと通り抜けていった後、口の中にじわりと香りが広がります。そば自体に甘みがあるので、そばつゆにつけなくても美味しく食べることができます。店内は「暗さ」を演出するため、最小限の灯りしか設置していません。視覚が十分に機能しない空間で、味覚に全神経を集中させてそばを食べる贅沢さ! 夜の暗さを忘れてしまった街から離れて、薄暗がりのぬくもりを楽しんでみてはいかがでしょうか?
要約で長い文章を短くまとめるコツ6選
長い文章を短くまとめるリライトは、文章の骨組みを残して無駄を削ぎ落す要約です。要約のコツは次の6つです。
文末表現を言いかえる
最も簡単なのが文末表現を言いかえることです。
長い文章は、多くの場合、文末表現がくどくなっています。これを別の表現に変えるだけで、字数を大幅に削れます。具体的には、次のような書きかえがあります。
- ~することができる → ~れる・~られる
- ~しなければならない → ~すべきだ
- ~している → ~する
元原稿の「食べることができます」は「食べられます」に書きかえられます。
また、元原稿でも何か所か見られますが、「です」を省いて名詞で終わらせる体言止めも使ってみましょう。
元原稿では、「オススメです!」ではなく「オススメ!」に、「贅沢さです!」ではなく「贅沢さ!」になっています。これらの体言止めには「オススメ」や「贅沢さ」を強調する効果もあります。
元原稿の1文目を「本所の『燈無蕎麦』は、こだわりのそばと店内の雰囲気が自慢!」としてもいいかもしれません。
ただし、体言止めばかりの文章は不自然ですので、使い過ぎには要注意!(←体言止め)
同義表現に言いかえる
文末表現を言いかえるのと似ていますが、文末以外の言葉も同じ意味の言葉に言いかえると、字数を少なくできます。特に、和語やカタカナ語を漢語に言いかえるのがオススメです。
たとえば、「もちこたえる」という和語や「メンテナンス」というカタカナ語は、「維持」という2字の漢語に言いかえられます。
ただ、漢語が多い文章は堅苦しいイメージがつきまとい、読者を「ウッ…」と思わせてしまうので、ひらがな・カタカナと漢字のバランスが大切ですよ。
元原稿の「そばつゆにつけなくても」を「そばつゆ無しでも」と言いかえるのはいかがでしょうか?
具体例を削る
具体例が豊富な文章は、読者にとってわかりやすい文章です。一方で、文字数が多くなって、要点だけを知りたい人にとってはうっとうしいですね。

文章を短くまとめる場合、具体例を削るのが鉄則です。
「この施設では、バスケットボールやバレーボール、スイミング、ヨガ、ダンスなどができます。」という文は、「この施設では、バスケットボールなどができます。」と短くできます。具体例は1つあれば十分で、3つも4つも並べる必要はありません。
また、 「この施設では、各種スポーツができます。」というように、バスケットボールやバレーボールなどを「スポーツ」という上位概念で言いかえるのもいいでしょう。
元原稿の2文目「国産で無農薬の厳選されたそば粉と小麦粉から作られます」は、そばの魅力の具体例です。そばの味や食感をメインに書くのなら、思い切って削ってもいいかもしれません。
修飾表現を削る
修飾は、詳しい説明を付け加えることです。「リンゴ」だけだと、どんなリンゴなのかわかりません。一方、「赤いリンゴ」だと、リンゴの色がわかります。このとき、「『赤い』は『リンゴ』を修飾する」といいます。

修飾表現は読者の理解を助ける働きがあります。字数に余裕があるなら、くどくならない程度に修飾表現を入れたいところです。
一方、要約では、修飾表現を削るのがコツです。「赤いリンゴ」は「リンゴ」で十分!
特に削るべき修飾表現は、「とても」「本当に」「きっと」などの強調語と「パリッと」「フラフラ」などの擬音語・擬態語です。これらが無くても意味が通じるからです。
元原稿の「ツルツルッと」「じわりと」を削ってしまいましょう。
言いかえ部分を削る
文章の中には、同じことの言いかえ部分が少なくありません。「AすなわちB」「AつまりB」などがその代表です。このような言いかえを見つけたら、AかBのどちらかを削りましょう。
「動物園で最も人気のある動物、すなわちライオン」ならば「ライオン」だけで意味が通じます。どうしても他の情報を残したければ「最人気のライオン」などとします。
元原稿の1文目の「こだわりのそばと店内の雰囲気」は、その後の文章で詳しく説明されます。結論を先に述べるという点では良い書き方なのですが、短い文章ではこの1文目が邪魔! 削除してもOKな1文です。
複数の文を一文にまとめる
複数の文を一文にまとめると、接続語や文末表現を省略できるので、字数が少なくなります。
「私はテレビを見た。その後、夕食を食べた。」は「私はテレビを見た後、夕食を食べた。」にまとめられます。「赤い箱はリビングに置いてください。そして、青い箱は寝室に置いてください。」は「赤い箱はリビングに、青い箱は寝室に置いてください。」とまとめられます。
複数の文を一文にまとめるときの注意点は、主語と述語を対応させることです。
「私はテレビを見た。その後、夕食を食べた。」は、「テレビを見た」(述語1)のも、「夕食を食べた」(述語2)のも「私は」(主語)です。だから、「私はテレビを見た後、夕食を食べた。」 でOK。
一方、「私と兄はテレビを見た。その後、兄は夕食を食べた。」は、「テレビを見た」(述語1)のは「私と兄は」(主語1)ですが、「夕食を食べた」(述語2)のは「兄は」(主語2)です。「主語1≠主語2」なので、「私と兄はテレビを見た後、夕食を食べた。」 にはなりません。正しくは 「私と兄がテレビを見た後、兄は夕食を食べた。」 です。

一文に複数の主語が入っていると、読者が混乱しかねません。そのため、「一文に主語は一つ」を原則にすべきです。
しかし、どうしても複数の主語・述語関係を一文にまとめたい場合は、主語の変わり目で主語を明示してくださいね。
元原稿については、「こだわりのそば」を前面に出すためにも、「店内の雰囲気」を説明した文章を一文にまとめるのがいいかもしれません。
駆け出しライターはリライトに挑戦しよう
ここまでで解説したコツをふまえて、実際に元原稿を150字まで短くしてみました。
本所「燈無蕎麦」の人気メニューは二八そば。コシのあるそばをそばつゆに三分の一だけつけてすすると、そばが喉を通り抜けていった後、口の中に香りが広がります。甘みのあるそばは、そばつゆ無しでも美味しい! 「暗さ」を演出する店内では、味覚に全神経を集中させてそばを食べながら、薄暗がりのぬくもりも楽しめます。
よくまとまっているのではないでしょうか?
今回のリライトの方針は、概ね次の通りです。
- 1文目は後の内容を短くまとめた言いかえなので削除。
- 2文目は具体例の一つなので削除。
- 3文目と4文目を1文にまとめた。「ツルツルッと」「ジワリと」を削除。
- 5文目の「そばつゆにつけなくても」を「そばつゆ無しでも」に言いかえた。文末も「美味しい!」と短くした。
- 6文目以降は1文にまとめた。
- 「最小限の灯りしか設置していません」「視覚が十分に機能しない空間で」「夜の暗さを忘れてしまった街から離れて」は「暗さ」の修飾と考えて削除。
要約に限らず、字数の少ない文章を書くときこそ、ライターの力量がはっきり表れます。読者に正しく伝えるために情報の取捨選択が必要ですし、文章の構成や言葉の選択にもかなり気を遣わなければならないからです。「字数の少ない文章≠簡単に書ける」です。
リライトのスキルを身につければ、自分のサイトやブログを修正するときもSEO効果を向上させられます。ライターにとっては必須のスキルといえるでしょう。
トップ画像=写真AC
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