都立高校入試社会では、公民分野や日本地理分野、近現代史を中心に、資料読み取り問題が必ず出題されます。
このタイプの問題で必要なのは知識ではありません。与えられた文章と資料とを照らし合わせ、きちんと情報処理できれば必ず正解できます。実際に過去問を検討しながら、資料読み取り問題で正解するコツを紹介します。
地方自治の知識や割合計算が必要ないって本当?
まずは27年度の大問5[問3]を解いてみましょう。
「公共財や公的サービスの原資となる財源の確保が課題となっている。」とあるが、次のⅠのグラフは、1990年と2010年における我が国の地方財政歳入総額及び歳入項目別の割合を示したものである。Ⅰのグラフ中のア~エは、地方税、地方交付税交付金、国庫支出金、地方債のいずれかに当てはまる。Ⅱの文章は、1990年と2010年の歳入項目別の変化の様子について述べたものである。地方債に当てはまるのは、Ⅰのグラフ中のア~エのうちのどれか。
Ⅱ
○自主財源である地方税は、金額に大きな変動はないが、全体に占める割合は減少している。
○歳入総額の増加分は、ほとんどが依存財源で賄われており、依存財源を割合の変化が大きい項目から並べると、地方債、国庫支出金、地方交付税交付金の順になっている。
入試当日は、「地方税」「地方交付税交付金」「国庫支出金」「地方債」という言葉が出てきて、「地方自治なんてちゃんと勉強していない!」と焦った受験生も多かったことでしょう。また、「割合」という言葉に拒否反応を示して、「これは捨て問!」と決めつけてしまった受験生もいたかもしれません。
しかし、この問題は地方自治の知識を問うているわけでもなければ、複雑な割合計算が必要なわけでもありません。常識的な読解力と簡単な引き算ができれば確実に解けます。解き方の手順を示しますね。
まずは、文章を読解しましょう。Ⅱの文章の1文目は「地方税の金額はほぼ変わっていないけれど割合が減少している」という意味です。
Ⅱの文章の2文目にある「歳入総額の増加分は、ほとんどが依存財源で賄われており」とは、「歳入が増えたのは依存財源が増えたからだ」という意味です。その依存財源について、「割合の変化が大きい項目から並べると、地方債、国庫支出金、地方交付税交付金の順」とあるので、地方債の割合の変化が一番大きいと分かります。
次に、グラフから読み取れる情報を整理します。ア~エの割合の変化を見ていきます。
- ア → 35.2-41.6 =-6.4
- イ → 17.6-17.8 =-0.2
- ウ → 14.7-13.3=1.4
- エ → 13.3-7.8=5.5
アとイは割合が減少(マイナスの変化)しているので、Ⅱの文章の1文目と合わせて考えると、どちらかが地方税です。Ⅰのグラフから、金額の変化がより小さいのはアなので、アが地方税です。
残っているイ~エのうち、エは割合が大幅に増加しています。先ほど検討したⅡの文章の2文目と合わせて考えると、エが地方債だと判断できます。したがって、正解はエです。
「地方債」「依存財源」などの言葉を知らなくても正解を導けますよね?
細かい年号や近現代史の知識を知らなくても正解できる?
24年度の大問6[問2]にもチャレンジしてみましょう。
「わが国では、第二次世界大戦後の労働力人口の変化が、国内の経済活動に影響を及ぼしてきた。」とあるが、次のグラフは、1955年から2010年までの我が国の労働力人口と国内総生産(GDP)の推移を示したものである。グラフ中のCの時期に当てはまるのは、次のア~エのうちではどれか。
ア 購買意欲の高い労働力人口は増え続け、第二次ベビーブームが訪れる一方、二度の経済危機を乗り越える中で、わが国に始めてコンビニエンスストアが開店するなど、消費スタイルが変化し始めた。
イ 第二次世界大戦後最長となる緩やかな景気回復が続く中で、少子高齢化が一層進んで労働力人口は減少に転じ、男女共同参画社会基本法が制定されるなど、個々人の能力を生かす社会の在り方が問われ始めた。
ウ 大量の労働力として産業の発展に貢献した人々の収入が増え、消費は拡大し、「三種の神器」と言われた冷蔵庫や洗濯機、白黒テレビの家庭への普及率が50%を超え、大量生産・大量消費の時代が始まった。
エ 労働力人口が依然として増え続けるとともに、銀行などが余剰資金を土地や株式に投資し、地価や株価が高騰したが、国の金融規制などにより地価や株価が急落し、バブル経済は崩壊した。
分かりやすい選択肢イから検討します。「労働力人口が減少に転じ」とありますが、グラフの中で労働力人口が減少に転じているのはDの時期だけです。したがって、Dがイです。
次に、「バブル経済は崩壊した」とあるエを検討します。バブル経済が崩壊すれば、国の豊かさを表す国内総生産(GDP)が下降に転じると判断できるでしょう。したがって、Dはイなので、Dの前のCが正解のエと判断できます。
細かい年号や近現代史の知識を知らなくても、グラフから情報をしっかり読み取れれば解ける問題でした。
もちろん、普段の勉強では、「正解を選べたから終わり」にしてはいけません。「ベビーブーム」「バブル経済」などの言葉を年表にまとめたり、教科書を読み直してストーリーをイメージしたりしてくださいね。
「グラフや統計がわからない!」と決めつけてはいけない!
資料読み取り問題が苦手な受験生は、「グラフや統計がわからない!」と決めつけて、せっかく与えられたヒントを見ようともしません。しかし、1問5点の記号選択問題を思い込みで捨ててしまうのはとても危険です。たった1問の正解不正解が合否に直結する可能性が高いからです。
都立高校受験生は、都立高校入試の過去問が10年分収録されている「高校入試 虎の巻」で資料読み取り問題に目を通し、正解するコツを自分なりにつかんでおきましょう。
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