保護者は子供に「ていねいに勉強しなさい」と注意しがちです。しかし、その「ていねいな勉強」が必ずしも子供の学力向上につながるとは限りません。不必要な注意をくり返すことで、保護者と子供が対立することもあるでしょう。
そうならないためにも、保護者は「ていねいな勉強」について具体的に考えることが大切です。
保護者が求めがちな「ていねいな勉強」5選
これまでの指導経験を振り返ったとき、保護者が子供に「ていねいに勉強しなさい」と注意する場合、その「ていねい」は次のどれかがほとんどでした。これらは一見すると「正しい」ですが、実は子供の勉強に悪影響を及ぼしているかもしれません。
1. ゆっくり解きなさい
そもそもの話として、「ゆっくり解く≠ていねいに解く」です。ゆっくり解いても雑な子供もいれば、ていねいだけれども速く解ける子供もいます。解くスピードとていねいさは無関係です。
もっとも、ほとんどの子供にとって、初めて習うことや難しいことは、ゆっくり取り組んだ方がよいことも多いのは確かです。手順を一つ一つ確認しようと思えば、どうしても時間がかかるからです。しかし、何の理由もなくゆっくり取り組んだところで、速く取り組んだときと同じ結果にしかなりません。
子供が速く解くことに集中し過ぎて手順の抜け漏れが目立つならば、保護者は「ゆっくり解きなさい」ではなく「一つ一つの手順を確認しながら解きなさい」と注意すべきです。
2. きれいな字を書きなさい
保護者は「きれいな字を書きなさい」と注意する前に、自分が想定する「きれいな字」が何なのかをはっきりさせましょう。きれいな字が、形や大きさのバランスが整っている美しい字を想定しているなら、そのような字を子供に強要するのはやめた方が賢明です。
書道のような字を書こうと思えば時間がかかります。子供はそれだけで勉強が嫌になります。しかも、美しい字は勉強の出来と何の関係もありません。
一方、きれいな字が、誰が見ても判読可能な読める字を想定しているなら、「きれいな字を書きなさい」ではなく「読める字を書きなさい」と注意すべきです。その上で、読める字がどういう字なのかを具体的に説明し、その書き方を一つ一つ教えてあげましょう。
3. 式を書きなさい
算数や数学では、保護者だけでなく指導者も「式を書きなさい」と言います。もちろん、必要な式は書くべきです。しかし、どんな式でも書けばよいのかといえば、そうとは限りません。
たとえば、三角形の面積を求める式を「5×8÷2」を書くのはよいですが、その後にいちいち「40÷2」や「5×4」を書く必要がありますか?
僕は必要ないと思います。むしろ、式を書けば書くほど写し間違いのリスクが高まるので、生徒には「余計な式を書くな」と注意しているくらいです。
算数で線分図や面積図などの図を描いて解く場合は、なおのこと式は要りません。式を書かなくても、図に必要な数値を書き込んでいくことで解けるからです。線分図などを描いた上で、複雑な式を書いて計算するのはナンセンスです。それなら、初めから式だけで解けばよいでしょう。
保護者は漠然と「式を書きなさい」と注意するのではなく、「●●の式を書きなさい」という風に、必要な式が何なのかを明示して書かせるとよいでしょう。
4. 見直しをしなさい
「見直しをしなさい」もよく聞く注意です。もちろん、見直しできるならした方がよいです。しかし、最初に解く段階で、見直ししないでもよいように解くのが大切であることも忘れてはいけません。そもそも「見直しをしないといけない=最初は雑に解いた」にもなりかねず、「ていねいに解きなさい」と矛盾するともいえるでしょう。
また、「見直し」という言葉も「ていねい」と同様にあいまいです。子供の多くは「見直しした」と言っても、自分の答案を眺めて終わりです。それこそ、解答欄を間違って記入していても気づきません。これでは見直しの意味がありません。
保護者は漠然と「見直しをしなさい」と注意するのではなく、「もとの式に答えを代入しなさい」「抜き出した答えと本文の該当箇所を一字一句見比べなさい」など、具体的な方法論を伝えるとよいでしょう。
5. すべて終わらせなさい
子供は、膨大な量の宿題などをすべて終わらせようとして、やっつけで雑に取り組むことが少なくありません。テストでも、すべての問題を解こうとして、一つ一つの問題をパパッと解いて、却って間違いが増えることも……。
保護者はまず、宿題でもテストでも、確実にできないといけないことと、できなくてもよいことを取捨選択してあげることからスタートしましょう。たとえば、国語のテストで毎回時間切れになる子供には「記述問題を捨てなさい」と伝えてもよいでしょう。子供がどうしても理解できない図形問題は「やらなくてよい」と決めてしまってもよいでしょう。
保護者は「すべて終わらせない」ではなく、「できることややるべきことを確実に終わらなせない」と子供に伝えるべきです。
「ていねい」を具体化すると、どういうことか?
僕が家庭教師先で生徒を指導する場合、「ていねい」とは何かを生徒と保護者に事前に伝えます。具体的には、以下の2つです。
- 細かく分割する。
- 言語化する。
たとえば、「8+7×3-5」を計算する場合、多くの生徒や保護者は単に「計算する」と言います。その「計算」の手順を「計算の順序を考える→かけ算をする→足し算をする→引き算をする」という風に細かく分割することが「ていねい」の第一歩です。
また、子供が「8+7×3-5」を間違った場合、漠然と「計算ミス」で終わらせるのではなく、「どこで間違ったのか?」を追求して「7×3=21なのに7×3=24としてしまった」のようにメモします。そうすると、子供が九九の七の段をきちんと覚えていなかったことが判明し、そこを補強すればよいことが保護者もわかるでしょう。
このように、「細かく分割する」ことと「言語化する」ことができて初めて「ていねいに勉強する」ことになる、と生徒や保護者に伝えています。
注意する側が「ていねいに」言葉を使う
もちろん、人によって「ていねい」が何を意味するかは異なるでしょう。しかし、保護者がその具体的な部分を伝えないまま「ていねいに勉強しなさい」と注意している限り、子供は何をすればよいのかわからず混乱します。それが「この人の言うことを聞いても意味がない」という感情につながり、将来的に不毛な「反抗期」を引き起こすのだと思います。
まずは、注意する側が「ていねいに」言葉を使うことから始める必要があります。
トップ画像=写真AC
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