大学受験で小論文が必要な高校生のために、小論文の書き方のコツを解説します。事前に十分な練習と準備をして、自信をもって入試本番に臨みましょう。
小論文の練習では調べながら書く
小論文の練習では、無理に何も参考にせずに書くと、小中学生が書くような稚拙な文章になりがちです。このような文章を大量に書き散らしても、小論文を書くスキルは上達しません。
小論文の練習では調べながら書くことが大切です。「これは正しいのかな?」と不安になるようなことは、ネットなどを使って情報を得たり、知識が正しいことを確認したりします。書きながら知識を補強していくことが目標です。時間を気にする必要はないので、正しい知識で書くことを徹底します。
調べる際はWikipediaを使って問題ありません。さらに深掘りしたければ、政府や大学の公式サイトや論文なども読んでみましょう。
たとえば、「グローバル化」に関する論文を検索したい場合は「グローバル化 論文」で検索すると、いくつも論文がヒットします。ただし、会員登録しないと読めない論文もあるので、とりあえず無料で読める論文を探してみてください。
サイトの信頼性に関しては、URLの末尾に着目します。「ac.jp」で終わるサイトは大学などの教育機関で、「go.jp」で終わるサイトは日本の政府機関です。これらのサイトは信頼できるサイトです。個人のブログサイトにはWikipedia以上に間違ったことが書かれている可能性があるので要注意です。
小論文の質は下書きの丁寧さで変わる
練習でも本番でも、小論文をいきなり原稿用紙に書き始めるのではなく、まずは下書きを作りましょう。
試験時間が60分なら、下書きに30~40分は費やすべきです。書くべき内容や文章構成がしっかりしていれば、20~30分で小論文を書けます。下書きをどれだけ丁寧に行なえるかで小論文の質は変わります。
下書きは以下の手順で作成するのがおすすめです。
1. 結論を決める
最初に結論を決めます。結論はオリジナリティーあふれたものである必要はありません。どこかで読んだことのある他人の意見でも、ありきたりな意見でも構いません。
ただし、「経済発展に賛成とも反対ともいえない」のようなどっちつかずの曖昧な意見や、「私たちにできることを頑張りたい」のような中身のない抽象的な意見はNGです。「経済発展に賛成だ」や「リユースを徹底してごみを減らしたい」のように、立場をはっきりさせて書きましょう。

2. 結論を補強する材料を集める
結論を補強するための根拠や具体例、反論・再反論などの材料を集めます。この段階では、思いつくままに箇条書きにしていくと、効率よく材料集めができます。
ただし、特に指示がない限りは、具体例は一つに絞り、それを深掘りするようにしてください。
たとえば、「差別問題」をテーマにするからといって、「黒人差別」「外国人差別」「LGBT差別」などをいくつも上げてはいけません。「黒人差別」に限定して、それだけを詳しく説明していきます。
3. 集めた材料の取捨選択と整理を行う
2で集めた材料のうち、結論を補強するのに必要なものとそうでないものを分け、必要ないものは線で消していきます(後で使う可能性があるので、消しゴムで消したり、塗り潰したりしてはいけません。何よりも、消しゴムで消す時間が無駄になります)。また、残った材料をどの順番で並べるかを考えて、番号を振っていきます。

どの材料をどの段落に入れるのかもここで決めてしまいます。段落は基本的に関連する材料のまとまりごとに構成し、800字ならば4~5段落程度になります。また、段落ごとの大体の文字数(行数)も決めましょう。
この過程で「この材料にはこういう情報がもっと必要だ」と気づいたら、その情報を書き加えていきます。
大学によっては、文章構成について問題文の中で細かく指示されることがあります。指示があるなら、その指示に従って順番や段落構成を決めましょう。
小論文を実際に書いてみる
ここまでで紹介した手順に従って、以下の問題で小論文を書いてみましょう。
【問題】デモや抗議活動などの運動が世界に及ぼした影響について、具体的な事例を挙げながら800字以内で論じなさい。
1. 結論を決める
「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」運動が、国内外に根強く残っている人種差別の再認識につながり、差別解消の機運を高めるきっかけとなった。
2. 結論を補強する材料を集める
- アメリカ・ミネアポリスで2020年5月、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に殺される。
- 米国内で警察の暴力、特に黒人に対する暴力への抗議デモが発生する。
- 一般人が撮影した事件の映像がSNSを通じて拡散される。
- 警察の主張と一般人が撮影した動画に食い違いがみられる。
- 黒人に対する暴力の根絶を訴える運動(BLM)が世界各国で激化する。
- 米大統領選挙では人種差別が争点となる。
- デモが暴徒化して破壊や略奪が行われ、警察と衝突する。
- トランプ前大統領が暴徒化するデモを「銃撃する」と脅迫する。
- BLMはヨーロッパ、中東、東アジアにも広がる。
3. 集めた材料の取捨選択と整理を行う
※書き加える情報は<>で追加。
結論
「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」運動が、国内外に根強く残っている人種差別の再認識につながり、差別解消の機運を高めるきっかけとなった。
<BLM=黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴える運動>
材料
※それぞれの冒頭の番号は書く順番。使わない材料は線で消した。
- ① アメリカ・ミネアポリスで2020年5月、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に殺される。
- ③ 米国内で警察の暴力、特に黒人に対する暴力への抗議デモが発生する。
- ② 一般人が撮影した事件の映像がSNSを通じて拡散される。
警察の主張と一般人が撮影した動画に食い違いがみられる。- ⑥ 黒人に対する暴力の根絶を訴える運動(BLM)が世界各国で激化する。
- ⑤ 米大統領選挙では人種差別が争点となる。
<トランプは暴徒の取り締まり強化、バイデンは差別解消→バイデン勝利> - ④ デモが暴徒化して破壊や略奪が行われ、警察と衝突する。
<暴徒化した抗議デモに対して、支持・不支持で世論が二分する> トランプ前大統領が暴徒化するデモを「銃撃する」と脅迫する。- ⑦ BLMはヨーロッパ、中東、東アジアにも広がる。
<イギリス→奴隷貿易と帝国主義が批判される、日本→黒人や黒人とのハーフに対する偏見は根強いとして批判、黒人以外の参加者も多かった>
段落構成
【1段落】結論(100字)
【2段落】具体的な国内的政治的分断…①~⑤(400~500字)
【3段落】グローバルな趨勢…⑥⑦(300~400字)
【4段落】結論(100~150字)
<抗議デモの暴徒化で一時的には世論に分断が見られたが、運動の世界的な広がりの中で黒人以外も差別に抗議した>
4. 小論文を書く
下書きを見ながら、原稿用紙に以下の小論文を書きました。
アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスで2020年5月、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に殺される事件が発生した。一般人が撮影した事件の映像がSNSを通じて拡散されたことが引き金となって、ミネアポリスだけでなく米国内の各地で、警察の暴力、特に黒人に対する暴力への抗議デモが発生した。デモの一部が暴徒化して破壊や略奪が行われ、警察との衝突もあった。そのため、デモに対して支持・不支持で世論が二分し、同年11月の米大統領選挙では人種差別が争点となった。バイデン氏は人種差別解消を訴え、暴徒の取り締まりを強化する方針を示したトランプ前大統領を破った。人種差別による社会の分断を米国民は許容せず、それがバイデン氏の勝利の一因になったと考えられている。
一方、アメリカのデモが世界中に飛び火し、BLMがヨーロッパや中東、東アジアでも盛んとなった。イギリスでは、奴隷貿易とその礎を気づいた帝国主義が批判され、各地で奴隷貿易に関わった人物の銅像が引き倒された。日本でも、黒人や黒人とのハーフに対する偏見があるとして抗議デモが起こり、多くの日本人が意識しない人種差別への問題提起がなされた。2020年のBLMの特徴は、黒人以外の参加者も多かったという点である。人種の壁を越えてあらゆる人々が人種差別の問題を意識し、それを批判する方向へと動いていったといえるだろう。
BLMの一部が暴徒化したため、一時的に世論が真っ二つに分かれた。しかし、運動の世界的な広がりの中で、黒人以外の多くの人々も自国に根強く残っている人種差別を直視し、これらに対して抗議した。BLMは分断を乗り越え、世界中の人々の意識を大きく変えたのである。(793字)
完成した小論文を使って復習する
完成した小論文を覚えるのが復習になります。「覚える」といっても、小論文を一字一句暗記するのではなく、ストーリーの流れをスラスラ言えるようにしましょう。
今回書いた小論文を覚えるのならば、次のような流れを頭に入れます。
BLM→人種差別の再認識→差別解消へ
【アメリカ】ジョージ・フロイドの死→抗議デモ→暴徒化→世論の分断→大統領選挙で人種差別が争点に→差別解消のバイデン勝利
【世界】デモ拡散→黒人以外の参加者も
- イギリス→奴隷貿易・帝国主義を批判
- 日本→黒人やハーフに対する偏見を批判
覚えた知識を家族や友人などに話してみると、さらに記憶に定着します。他人に話すのが嫌ならば、他人に話しているつもりで、自分自身に話してみましょう(セルフレクチャー)。
入試本番では、その場で考えるのではなく、覚えた知識やストーリーの流れを使って書くと、高評価を得られる小論文になるはずです。
トップ画像=写真AC
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