「親が勉強を教えると子供とケンカになります。どうしたらいいですか?」は、多くの親にとって永遠の悩みでしょう。この悩みについては、僕も家庭教師先でよく相談されます。教育系掲示板で見かけることも少なくありません。
「どうしたらいいですか?」に対する僕なりの回答は「親が子供に勉強を教えなければいいだけです」です。もっとも、これだけだと、親も、場合によっては子供も、困っている現状を解決できません。
今回は、親が勉強を教えないで子供をサポートする方法と、その際に役立つ具体的な言葉を紹介します。
親は子供に勉強を教えなければならないのか?
そもそも親が子供に教えるのはなぜでしょうか?
子供は塾や学校で新しいことを習います。しかし、それを授業内で理解できるとは限りません。理解できなければ、次回までに取り組まなければいけない宿題を解けません。こうした状況を打開するため、親は子供に教えます。
これは特に中学受験に臨む親子で顕著です。中学受験専門の進学塾はカリキュラムの進度が速く、1回の授業内容が膨大であるため、生徒はなかなかついていけません。そのため、中学受験生の多くは、塾で習った内容を親に教え直してもらうことが多いようです。
「中学受験は親の受験」といわれるように、中学受験生が塾で上手くやっていくためには、親のサポートが必須だと一般的には考えられます。近年は子供に「自走」を求めるのが流行りですが、一部の優秀な子ども以外には無理な話で、親のサポートを完全には排除できないでしょう。
もっとも、「親のサポート=親が勉強を教える」は思い込みです。たとえ、子供が塾などで習ったことを理解できていなくて、宿題を解けなくても、親が子供に勉強を教えなければならないわけではありません。親は、勉強を教えるのではなく、子供が自力で理解できるように手伝ってあげるのがよいでしょう。
子供がさまざまなことを自力で理解していく上で大切なのは、自ら考えたり試したりして、それを言葉で他人に伝える経験です。そして、その経験のきっかけになるのは、「どうして?」「どうやって?」などの問いです。親は子供にいろいろ問いかけてみましょう。
子供の言葉を引き出すための言葉7選
親は、子供に「わからない」と言われたり、宿題の間違いに気づいたりすると、つい教えたくなります。しかし、その気持ちをグッとこらえて、子供の言葉を引き出すために問いかけるのがおすすめです。以下では具体的な問いかけの言葉を紹介します。
どうしてこの答えにしたの?
子供が宿題などで間違った答えを書いたときは、「間違っている」と直接伝えるのではなく、「どうしてこの答えにしたの?」と問いかけて、きちんと解き方を説明できるかどうかをチェックしましょう。
子供が正しい解き方を説明した場合、親は「でも、答えは違っているよ」と言って、子供にもう一度解き直させます。一方、子供が解き方を説明できないなら、親はこの後で紹介する問いかけによって復習を促します。親は、子供の間違いを責めるのではなく、子供の理解度を的確に把握することを心がけます。
また、子供が正しい答えを書いているときでも、時々「どうしてこの答えにしたの?」と問いかけてみましょう。そうすると、適当に解いてたまたま正解した、答えを丸写ししたなど、衝撃の事実が発覚することがあります。
授業で何を習ったの?
子供が「わからない」という場合、親はまず「授業で何を習ったの?」と問いかけて、子供が授業内容をどこまでわかっているのかを把握しましょう。
親の問いかけに対して子供は沈黙してしまうかもしれません。このとき、親は「授業のノート(プリントなど)を見ながら説明していいよ」と言って、子供にノートなどを見直させます。こうしてノートなどを活用していけば、子供は授業中にノートを取ることの大切さを実感できるはずです。
もっとも、子供が授業で何も理解できていないこともあります。たまたまその回だけ理解できなかったのか、理解できないことがずっと続いているのかを親は判断する必要があります。前者の場合、親は子供に塾へ質問に行かせたり、市販教材で調べさせたりします。一方、後者の場合、転塾も視野に入れた方がよいかもしれません。
調べて何がわかったの?
子供が塾などの授業を理解していない場合、子供を塾へ質問に行かせる前に、手許の教材やネットなどを使って調べさせるとよいでしょう。
このとき親が行うべきは、子供に調べ方を教えることです。教材を調べるならば目次や索引を使う、ネットで調べるならば適切な検索ワードを入力する、などを子供に教えます。
特に、ネットで調べさせる場合、親が隣で管理していないと、子供は関係ないサイトを見て時間を潰してしまいがちです。ネットの使用は親が管理しないといけません。
こうして子供に調べさせた後、親は子供に「調べて何がわかったの?」と問いかけます。調べたことを自分の言葉でアウトプットさせるためです。
どうして間違ったと思う?
親は、子供に間違い直しをさせる前に、「どうして間違ったと思う?」と問いかけると効果的です。間違いの原因を特定することの習慣化を通して、子供が自分の間違いの傾向を把握し、具体的な対策を考えるきっかけになるからです。
このとき、親は非難するような口調で問いかけてはいけません。むしろ、「間違いがわかってよかった」という前向きな声がけをして、子供が間違いを恐れないようにする必要があります。
また、子供が「ケアレスミス」「計算ミス」などとあいまいなことを答えた場合、親は「もっと詳しく教えて」などとさらに問いかけましょう。子供には、「計算の順序を間違った」「小数点の位置が一つずれていた」などと具体的なところまで突き詰める習慣を身に付けさせます。
どうしてこの答えが正解になるの?
「間違った問題は解説を読みましょう」といわれます。このこと自体は正しいのですが、解説を読む「だけ」ではあまり効果がありません。解説を読んだ子供が「わかった」つもりになって終わってしまい、同じ問題でずっと間違い続けることが少なくないからです。
親は、子供に解説を読ませる前に正解だけを教え、「どうしてこの答えが正解になるの?」と問いかけましょう。正解から逆算させて、「どうやったら正解にたどり着けるのか?」を自力で考えさせるためです。
特に、国語は本文中に正解の根拠があるので、その根拠の見つけ方を子供自身に考えさせるとよいでしょう。「●●行目に『~』と書かれている。」というレベルの解説をいくら読んでも、国語の問題を解けるようにはなりません。
それはどこで教わったの?
子供が間違った解き方や考え方をしているとき、親はそれを「間違っている」と指摘するとケンカになることがあります。場合によっては、親の解き方や考え方も間違っていて、子供を混乱させることにもなりかねません。
親は、子供の間違いが気になるとき、子供に「それはどこで教わったの?」と問いかけてみましょう。子供の主張を一方的に否定せず、その主張の根拠を子供自身に確認させます。
子供が「塾で習った」と答える場合、親は「本当にそうなの?ノートを見せて」などと言って、子供が本当にそう習ったのかどうかを確認します。子供の言ったこととノートに書かれていることが違っていたら、子供も自分で間違いに気づいて訂正するでしょう。
逆に、ノートにも間違いが書かれていたら、親が塾に直接質問してみるとよいでしょう。子供の勘違いや写し間違いが判明することがあります。
私はこう思うけれど、あなたはどう思う?
子供が明らかに間違った考え方に拘り、それが原因で先に進めなくことがあります。そのときに、親が「その考え方は間違っている」と言うと、親子関係にひびが入りかねません。
親は、子供の考えを訂正したいとき、「私はこう思うけれど、あなたはどう思う?」と問いかけてみるとよいでしょう。自分の考えを明示した上で、相手に考えを改めることを促す効果があります。
たとえば、子供が「江戸幕府を開いたのは豊臣秀吉だ」と言って譲らない場合、親は「私は江戸幕府を開いたのは徳川家康だと思うけれど、あなたはどう思う?」と問いかけます。その上で、「それはどこで習ったの?」と組み合わせ、子供の考えが間違いであることをはっきりさせていきます。
勉強を教えない親のサポートで子供が成長する
子供に問いかけ、子供の言葉を引き出していくのは、とても時間がかかります。教えてしまった方が手っ取り早いですし、場合によっては、すぐに効果が表れることもあります。しかし、長期的な視点で見ると、自ら考えたり試したりして、それを言葉で他人に伝える経験は、子供が中学進学後に自力で勉強していくのに役立ちます。
僕も、家庭教師として教える場合、できるだけ生徒に問いかけるようにはしています。しかし、時間的な制約もあり、教えてしまうことも少なくありません。だからこそ、家庭学習の中で、親は子供に問いかけてほしいと思っています。
親が勉強を教えないで子供をサポートする方法は、子供とのケンカを避けられるだけでなく、子供の成長にもつながって一石二鳥です。
トップ画像=イラストAC
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