中学受験算数で方程式を使っていいのか?特殊算の解き方に関する議論を考える

中学受験算数で方程式を使っていいのか?特殊算の解き方に関する議論を考える 算数

「算数で方程式を使っていいのか?」がしばしば話題になります。特に多いのが、中学受験算数の特殊算で方程式を使うことの是非です。

これに関して、中学受験生も指導するみみずくの考えを示したいと思います。

「算数で方程式を使ってはいけない」はおかしい

中学受験生である小学生本人が「算数で方程式を使ってはいけない」と考えているなら、そのこと自体を僕は否定しません。好きにすればいいと思います。

一方、算数指導者が「算数で方程式を使わない方がいい」と主張する程度なら、これも僕は気にしません。しかし、「算数で方程式を使ってはいけない」と主張する算数指導者に対しては、はっきりと「それはおかしい」と反論します。

「算数で方程式を使ってはいけない」への反論

「算数で方程式を使ってはいけない」という主張にはいくつか根拠があります。それらを一つ一つ検討していきます。

1. 方程式で解くと不正解にされる可能性がある

「方程式で解くと不正解にされる可能性がある」という都市伝説がまことしやかに囁かれています。受験生やその保護者は、こういう真偽不明の情報を鵜呑みにするのではなく、気になるのなら志望校に直接問い合わせるべきでしょう。

開成中の説明会では「方程式を使っても構わない」という話があったそうです。優秀な学生を求めている上位校では、中学内容を先取りしている受験生を歓迎することはあっても、排除することはないでしょう。

もちろん、方程式を使って解いた答案を0点にしたり減点したりする中学も存在するかもしれません。しかし、そういう低レベルな中学は志望校から外すのが吉です。進学後も下らないルールなどで雁字搦めにされかねないからです。

そもそもの話として、途中式を一切書かせず、解答だけを記入するタイプの試験では、受験生が方程式で解いたかどうかを採点者は把握できません。志望校の入試問題がこのタイプなら、「方程式で解いていいのか?」と悩むこと自体が無意味です。

2. 負の数を理解していないと方程式を解けない

方程式の定義は「未知数を含む等式」です。この定義に「負の数を使って計算する」ことは含まれていません。

「負の数を理解していないと方程式を解けない」の例として挙げられるのは移項です。x+3=7をx=7-3と変形して解くとき、+3が-3になるので、ここで負の数が出てくると考えるのでしょう。

確かに、移項を「一方の辺の項が他方の辺に移動するとき、項の正負が逆になる」とするならば、負の数の概念が必要でしょう。しかし、移項の本質は両辺に同じ操作をすることです。x+3=7がx=7-3となるのも、両辺から3を引いてx+3-3=7-3としているからで、わざわざ負の数の概念を持ち出さなくても処理できます。

中学受験算数に限らず、算数では「逆算」「□を求める計算」などで□+3=7の□を求めます。現在は、普通の公立小学校でも、xやyを使った式を作って、そのxやyに当てはまる数を求める「文字と式」を教えます。また、中学受験算数でも、方程式の小学生バージョンである「まるいち算」「消去算」などがよく使われます。

これらを方程式と区別する意見もありますが、ただの詭弁に過ぎません。「方程式」という言葉を使っていないだけで、実際には方程式と同じことをさせているからです。

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3. 方程式では解けない問題がある

方程式では解けない問題があるのは、中学受験算数に限った話ではありません。高校入試でも大学入試でも、方程式では解けない問題がいくらでもあります。高校入試や大学入試の数学で「方程式では解けない問題があるから、方程式を使ってはいけない」という主張は出てこないのに、中学受験算数ではそういう主張が出てくるのは謎です。

方程式では解けない問題があるから、さまざまな解き方を知っておくのは大切なことです。方程式よりも速く解ける解き方を覚えておいて損はありません。

しかし、これらの事情と方程式禁止は結びつきません。「いろいろな方法を使って問題を解くことが算数の目的だ」というならなおさら、数ある解法の一つとして方程式も習得しておいた方がいいのではないかと思います。どうして方程式だけ排除したがるのかが僕には理解できません。

最近は、方程式を使わないと解きにくい問題も中学入試の算数で散見されます。そのため、式を立てて計算で答えを求められる受験生は有利です。

4. 抽象的な方程式を小学生は理解できない

「移項すると正負が逆になる」のようなレベルで方程式を捉えていれば、確かに抽象的で小学生には理解できないと思われます。このレベルだと、中高生ですら理解できないでしょう。もはや「抽象的」というよりも「意味を伴わない機械的操作」で、理解するかどうかという話ではなくなります。

一方、方程式を「両辺に同じ操作をする」というレベルで捉えられれば、つりあった天秤に載せたおもりを増やしたり減らしたりすることと同じだとわかり、小学生でも理解できるでしょう。小学3、4年の算数の問題集には天秤の問題が載っていることが多く、要はこれが方程式です。

方程式を理解できない小学生は、等式の意味を理解していないか、「両辺に同じ操作をする」という具体的な操作を受け入れられないだけです。抽象的思考とは全く関係ありません。

また、問題文などから立式できない受験生は、方程式が理解できないというより、鶴亀算や差集め算といった特殊算の解き方の意味すら理解できていない可能性が高いと考えられます。彼らはパターン暗記で数字を適当にいじっているだけでしょう。方程式がどうこうよりも根深い問題が横たわっています。

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5. 方程式を使うと頭が良くならない

算数が大好きな指導者の中には、「算数は頭を良くするために勉強するものだ」と主張する人がいます。算数に何を求めるのかは人それぞれで結構ですが、多くの受験生にとって算数を学ぶ理由は、頭を良くするためではなく志望校に合格するためです。一部の指導者と多くの受験生の間で認識がずれています。

そもそも、鶴亀算を解く上で「すべてを亀だと仮定すると、足の本数の差は……」のように考えることが、将来の頭の良し悪しに直結するとは思えません。

「問題解決能力を鍛える」などをキャッチフレーズにした大人向けの算数の本をたまに見かけます。しかし、中学受験算数のパズル的な問題が解けたからといって、現実世界の複雑な問題を解決するのに応用できるわけがありません。

こういう下らないキャッチフレーズなどを真に受けて「算数ができる=頭が良い」と考えるのは滑稽ですし、いわゆる「算数的思考」を阻害するとして方程式を排除するのもバカげています。

方程式を使わない特殊算の解き方を教える理由

僕は「算数で方程式を使ってはいけない」という主張を一切支持しません。とはいえ、中学受験生に算数の特殊算などを教える際、方程式を使わない解き方を教えます。塾や参考書などが方程式を使っていないので、そちらに合わせておくことで、生徒が自学自習しやすいように配慮しているだけです。

一方、中学受験しない小学生を指導していた時期は、特殊算などを一切教えず、中学数学を先取りさせて方程式も教えていました。小学校の成績に大きな問題のない生徒なら、小学5、6年で普通に方程式を理解できますし、使いこなせるようになります。

僕は、中学受験しないのなら、方程式を使わない特殊算に多大な時間と労力を費やすことに意味はないと考えます。もちろん、さまざまな解き方を知るために、方程式を使わない特殊算の解き方を学ぶのはよいと思います。ただ、これは方程式を習得した後で十分でしょう。

トップ画像=写真AC

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