都立高校入試社会の大問3は日本地理分野です。そこでは、4つの説明文に対応する都道府県を選ばせる問題が必ず出題されます。4つ全て正解しないと5点をもらえないため、多くの都立高校受験生たちが苦手とします。
しかし、都立高校入試社会の問題には独特の傾向があります。この傾向を踏まえて勉強していれば、都道府県を選ぶ問題は決して難しくありません。
県名や地名が分からなくても正解できる?
平成23年の大問3の[問1]を例に傾向を分析します。
下の表のア~エは、略地図中のA~Dのいずれかの県の、1960年と2008年における人口密度、県内の自然環境と近年の人口分布の様子をまとめたものである。A~Dの県のそれぞれに当てはまるものは、下の表のア~エのうちではどれか。(表の人口密度については省略します)
ア ○中央部や県境に山地などが位置し、河川の多くは山間部を蛇行している。全国的に見ても年降水量の少ない北部に対し、南部には3000mmを超える地域もある。
○大都市への通勤者を中心に、北部では人口が増加している地域もあるが、農林業や漁業中心の中央部や南部では過疎地域が見られる。
イ ○中央部から東部にかけて広がる平野には湖があり、県内を流れる河川が流域面積全国第1位の河川に合流して県境を東流している。
○交通網の整備が進み、大都市と結び付きを強める南部では人口が増加している地域もあるが、農林業が中心の北西部では過疎地域が見られる。
ウ ○南部には自然災害をもたらした火山が見られるなど平地に乏しく、海岸線は多くの半島、岬と湾、入江から形成されている。
○炭鉱閉鎖などに伴う急激な人口減少は鈍化傾向にあるが現在も続き、造船業などが立地している地域を除き、山間部などに過疎地域が見られる。
エ ○東部では南北に山脈が走り、世界遺産に指定されている北西部の山地には、世界最大級のブナの自然林が残されている。
○米価の伸び悩みや鉱山関係の産業の低迷が続く中、県庁所在地などの一部の地域を除き、山間部などを中心に過疎地域が見られる。
略地図中のA~Dの県名は次の通りです。
実際の問題では、白地図にA~Dの記号が振られているだけで、具体的な県名は書かれていません。そのため、「A~Dの県名が分かんない!」と絶望する受験生が多いはずです。
また、表の文章を読んで、「イの『流域面積全国第1位の河川』って何?」「エの『世界遺産に指定されている北西部の山地』ってどこ?」とやる気を無くす受験生もいそうですね。
しかし、都立高校入試社会の日本地理問題で問われているのは、県名や地名などの知識ではありません。では、具体的にどう考えていくべきでしょうか?
日本の諸地域を大きな視点で捉える
A~Dの県が日本全国に散らばっています。これは何を意味しているのでしょうか?
都立高校入試社会の日本地理問題では、関東地方や東北地方、九州地方といった、日本を大きく区分したときの大まかな特徴を問うているのです。
そのため、「四国といえば●●」の●●を答えられれば十分。その●●に当たるキーワードは、教科書の目次を見ると分かります。たとえば、九州地方なら「火山」、近畿地方なら「歴史」……といった感じです。
以上を踏まえて、平成23年の大問3の[問1]を解いていきますよ。
「大都市」とは?
アの「大都市への通勤者を中心に、北部では」に注目。日本で「大都市」といえば、真っ先に思いつくのは東京と大阪です。東京か大阪が北にある県はCの和歌山県ですね。和歌山県の北には大阪があります。
イも同様に、「大都市と結び付きを強める南部」に注目。東京か大阪が南にある県はBの茨城県です。茨城県の南西には東京都があります。「流域面積全国第1位の河川」は利根川です。川の長さは日本第2位です。
蛇足ですが、「秋田県の南東さ、大都市・仙台があるべ?」とはいわないでくださいね(笑)。
「火山」といったら?
ウのポイントは「火山」です。火山といえば九州地方ですね。
僕の持っている教科書『中学社会地理』(教育出版)でも、「火山とともに暮らす」という見出しで九州地方が紹介されています。また、「火山灰」「地熱発電」「シラス台地」など、九州地方のページには火山関連の太字が満載。これらも覚えておきたいところです。
というわけで、ウはDの長崎県です。
世界遺産の白神山地
最後に残ったエがAの秋田県。「世界遺産に指定されている北西部の山地」は白神山地です。『中学社会地理』(教育出版)では、白神山地について、「世界遺産と街並みを守る」という特集ページが組まれています。こういうページも読んでおきたいところです。
自然環境や農業をヒントに問題を解く
平成30年度の大問3の[問1]も同じ解き方で解いてみましょう。
次の表のア~エの文章は、略地図中のA~D のいずれかの県の自然環境と農業の様子についてまとめたものである。A~D の県のそれぞれに当てはまるのは、次の表のア~エのうちではどれか。ア ○海岸部には複雑に入り組んだ海岸線が見られ、西部には南北方向に山脈が走り、夏季には寒流の影響により冷たく湿った北東の風が吹き込み、冷害となることがある。
○内陸部の盆地などでは、夏季の冷涼な気候を利用して、大消費地向けに野菜などの栽培が行われている。
イ ○多数の半島や島々が見られ、南東部には火山が位置し、海洋から吹き込む風の影響で年間を通して温暖である。
○半島部などでは、温暖な気候を利用して、ばれいしょの二期作や果樹などの栽培が行われている。
ウ ○北部には東西方向に山地が見られ、暖流の影響で年間を通して温暖となる南部には、台風の通過などにより多量の降水量がもたらされることがある。
○山地の南側の地域などでは、日当たりがよく、昼夜の寒暖差が大きいことを利用して、県の特産品となっている柑橘類などの栽培が行われている。
エ ○西部には火山が位置し、北部には平野が広がり、冬季には北西から吹く風の影響で積雪が見られる。
○砂丘が広がる地域では、スプリンクラーなどの灌漑設備を利用して、果樹などの栽培が行われている。
アは、「冷害」「夏季の冷涼な気候」とあるので、日本地図の北側(つまり寒い場所)、具体的には東北地方と判断できます。したがって、アはAの岩手県です。「複雑に入り組んだ海岸線」とはリアス式海岸のことです。
イに「火山」とあるので「九州地方だ!」と早合点してはいけません。なぜなら、エにも「火山」とあるからです。イとエのどちらがDの長崎県でしょうか?
ここで着目すべきは、エの「積雪」「砂丘」です。雪が積もるのは、日本海に面した北陸地方や山陰地方ですね。さらに、日本で砂丘といえば、高校入試レベルで問われるのは鳥取砂丘だけです。したがって、エは、山陰地方にあるBの鳥取県です。
エが決まったところで、イがDの長崎県と確定できます。イの「ばれいしょ」はじゃがいものことです。また、「二期作」は、同じ耕地で年に2回、同じ作物(米など)を栽培して収穫することです。同じ耕地で年に2回、異なる作物(米と麦など)を栽培するのは「二毛作」なので、混同しないように注意しましょう。
残っているウはCの高知県です。「柑橘類」というのは、高知県ではみかんのことです。みかんの生産量で全国上位にランクインしているお隣の愛媛県も覚えておきたいところです。
社会的な思考力・応用力を身に付けるために
都立高校入試社会の日本地理問題では、日本地理を大きな視点で捉える社会的な思考力・応用力を試しているんですね。
このタイプの問題で高得点を狙うには、用語丸暗記では通用しません。都立高校入試の過去問が10年分収録されている「高校入試 虎の巻」で問題の傾向を把握した上で、地域ごとの気候や特色を白地図にまとめていく勉強法が有効です。
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