形容詞の活用には、「(く)・く・し・き・けれ・○」の本活用と、「から・かり・○・かる・○・かれ」の補助活用(カリ活用)があります。本記事では、これらの活用を楽に覚える方法を紹介します。
く・から・く・かり・し・き・かる・けれ・かれ?
古典文法における形容詞は、「うつくし」「あやし」「多し」など、「し」で言い切ります。物事の性質や状態、人の感情などを表す語で、他の語とくっつく(接続する)と形が変わります。
「うつくし」は、「人」とくっつくと「うつくしき人」となり、「うつくしき」に変わりました。この形の変化を「活用」といいます。
活用を表にまとめたものが活用表です。たとえば、「なし」の場合、どんな語にくっついても形の変わらない「な」の部分が語幹、形の変わる「し」の部分が活用語尾です。
活用語尾を「未然形」「連用形」「終止形」「連体形」「已然形」「命令形」の順に並べれば、活用表ができ上がります。形容詞の活用表は2列になっていて、右列を本活用、左列を補助活用(カリ活用)といいます。
形容詞「なし」の活用表は下の通りです。「なし」は「て」に接続すると「なくて」なのでク活用とわかります。ク活用の本活用は「(く)・く・し・き・けれ・○」と、補助活用は「から・かり・○・かる・○・かれ」です。
活用表では、右列(本活用)の命令形と、左列(補助活用)の終止形と已然形が抜けています。
この抜けている部分を飛ばして覚えさせるために、某高校の古典の先生は「形容詞の活用表はギザギザに覚えなさい」と言ったそうです。「く・から・く・かり・し・き・かる・けれ・かれ」という覚え方をさせたかったようです。
この先生に限らず、「く・から・く・かり……」はあちこちで聞かれる覚え方です。YouTubeで動画検索すると、これが歌になっている動画もヒットします。
「く・から・く・かり……」で形容詞の活用表を覚えられるなら、そのこと自体を批判するつもりはありません。
しかし、古典を教える先生が、形容詞の活用を初めて習う生徒に「く・から・く・かり……」を覚えさせるのは最悪です。
補助活用(カリ活用)の正体はラ変?
形容詞の活用表が2列になっている理由を確認しましょう。
「から・かり・○・かる・○・かれ」の補助活用(カリ活用)は、実は「く・く・し・き・けれ」の本活用から派生したものです。本活用の連用形「く」にラ変動詞「あり」をくっつけて使っているうちに音が変化しました。
具体的には、次のようになっています。
- くあら → から
- くあり → かり
- くある → かる
- くあれ → かれ
このことが分かっていれば、カリ活用はラ変動詞と同じ活用をするということも理解できるでしょう。カリ活用の終止形と已然形を補って活用表を書きかえると以下の通りです。
カリ活用の中に、「ら・り・り・る・れ・れ」というラ変動詞の活用が見えてきましたね。ということは、覚えるべきは本活用だけで、「カリ活用はラ変と同じ。ただし、終止形と已然形は無し。」でおしまいです。
動詞の活用は、古典学習の最初の方で暗記させられるはずです。そこでラ変動詞の活用を覚えたなら、カリ活用をわざわざ暗記する必要はありません。
「ラ変と同じ」は助動詞の活用の暗記でも役立つ
「ラ変と同じ」は、形容動詞の活用だけでなく、活用表が2列になっている助動詞の活用を暗記する上でも役立ちます。
たとえば、打消の助動詞「ず」の活用は「特殊型」と呼ばれますが、右列が「ず・ず・ず・ぬ・ね・○」で、左列が「ざら・ざり・○・ざる・ざれ・ざれ」です。左列は、連用形「ず」とラ変動詞「あり」のくっついたものから派生しているので、当然活用の型はラ変と同じです。ということは、「ず」の活用表も、右列の「ず・ず・ず・ぬ・ね・○」だけ覚えれば十分です。
古文を教える先生は、将来生徒が助動詞を覚えなければならないことも考えれば、カリ活用の成り立ちを話した上で「カリ活用はラ変と同じ」と教えるべきでしょう。その上で「『く・から・く・かり……』で覚えたい人はそれでも構わない」と言うなら話は別ですが……。
某高校の古典の先生は「形容詞の活用表はギザギザに覚えなさい」と意味の無い丸暗記を生徒に強要しました。こういうことがきっかけで、生徒たちはますます古典が嫌いになるのでしょう。
最低限の知識をさまざまなことに応用する力を養う
ラ変動詞の知識を使って形容詞の補助活用(カリ活用)の暗記を省略することに限らず、勉強全般で大切なのは、最低限の知識をさまざまなことに応用する力を養うことです。特に、覚えることが多い高校の勉強なら尚更です。
トップ画像=フリー写真素材ぱくたそ / モデル=河村友歌
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