麻布中入試の2023年国語は、寺池はるな「タイムマシンに乗れないぼくたち」からの出題でした。浦和明の星女子中と渋谷教育学園渋谷中でも出題された作品です。
本文として採用された物語文の特徴
本文として採用されたのは、家庭でも学校でも人間関係が上手くいかず孤立している12歳の少年・草児が、不思議な男と出会って言葉を交わすことで自分にも「だいじな人」がいることに気づき、家庭や学校で少しずつ他人との関わりに居心地の良さを感じていく場面です。少年の心の成長が丹念に描かれています。
受験生とほぼ同年齢の少年が主人公の物語文だったので、草児と同じように孤独感を抱いていた受験生は感情移入したかもしれません。一方で、友達に囲まれ、クラスの人気者として楽しく過ごしてきた受験生にとっては、草児の境遇や葛藤を理解するのが難しかったでしょう。
どちらのタイプの受験生にとっても、感情的に本文を読むのは好ましくありません。あくまでも本文中の記述を根拠とした解答が求められます。物語文の読解を通して論理的思考力を試す良問です。
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麻布中国語の出題傾向
麻布中入試の国語は、例年6000字以上の物語文1題です。漢字の書き取りや記号選択問題、抜き出し問題もありますが、ほとんどの問題は記述問題です。
本文の傾向
2023年の本文は、12歳の少年が主人公で、受験生にも親しみやすい物語文でした。ただ、「他者との関わり」という普遍的なテーマが描かれているため、普段からこのレベルの文章を読み慣れていないと、登場人物の心情や情景描写の意味を理解するのは難しいでしょう。
物語文(小説)では、主人公以外の登場人物も何気ない情景描写も主人公を引き立てる役割を担っているのが原則です。
2023年の本文でも、草児の母や祖母、文ちゃん、転入先の同級生・担任、不思議な男は全員、草児の気持ちの変化と精神的成長(物語文の主題)を読者に印象付けるための存在です。
また、情景描写や比喩も秀逸です。設問にもなっていますが、博物館やお菓子がストーリー全体の流れを印象的に方向付けています。草児が自らをカンブリア紀の生物に重ね合わせたり、タイムマシンの話をきっかけに大切なことに気づいたりする描写は、丁寧に読んでいきたいところです。
設問の傾向
麻布中国語は、すべての設問が絶妙に結びついているのが特徴です。各設問で矛盾が生じないように記述しましょう。特に最後の問題は、「本文全体をふまえ」という指示に従い、これまで解いてきた設問の内容も盛り込みながら解答を書くのがコツです。
記号選択や抜き出しは難しくありません。しかし、これらの記号選択や抜き出しの問題が記述問題の方向性を決定づける役割を担っていることを意識しましょう。
2023年の問題では、七で記号を選んだ後、自分の解答の方向性がおかしいことに気づいたら、前問を修正した上で八以降の問題に進んでいく必要があります。
記述問題は字数制限がなく、枠だけが与えられます。与えられる枠の行数が、2023年は1~4行、四は1.5行でした。この行数から、最低限いくつの情報を解答に盛り込まなければならないかが予測できます。
登場人物の言動や情景描写などを解釈して心情表現(嬉しい、楽しい、悲しい、怒るなど)を導く問題も少なくありません。もっとも、「解釈」といっても、「小中学生はこうあるべき」という道徳的な解釈ではなく、本文中の根拠をヒントにして「多くの人はこう読む」という客観的な解釈が求められています。自分の思い込みや誰かから教わったことに囚われず、本文中から根拠を探すことを徹底しましょう。
また、本文に行数が振られていて、複数の部分の比較を求める問題があるのも特徴です。
2023年は、草児が博物館を訪れる回数の変化(十二)や、草児の味覚の変化(十三(1))に着目させ、これらの変化が草児の気持ちや状況とどう結びついているのかを考える設問がありました。
麻布中国語対策となる勉強法
麻布中国語対策としては、小手先のテクニックで情報処理するのではなく、本文を丁寧に読み、理解したことを適切な言葉で説明する訓練が必要です。
情景描写の解釈に慣れるための勉強法
麻布中国語では、登場人物の言動だけでなく、情景描写を解釈させる問題もよく出ます。
たとえば、「雲一つない青い空が広がっていた。」という描写を「不安や不満が解消されたのをきっかけに、前向きに歩んで行こうと決意する気持ち。」などと解釈することが求められます。
こうした解釈のスキルは、漠然と問題を解いたり、趣味で読書したりしても、なかなか身に付きません。麻布中や他の中学の過去問などを使い、国語指導者や保護者と議論しながら、「これはこういうふうに解釈するのか!」と納得を積み重ねていくとよいでしょう。
物語文の主題を捉えるための勉強法
麻布中国語では、登場人物や情景描写の解釈を通して、主人公の気持ちの変化や精神的成長を追っていきます。物語文の主題を捉えることが求められる王道の問題です。
このタイプの問題の対策としては、さまざまな物語文を読んで、そこから読み取れる主題や教訓を捉える練習をするのが効果的です。
たとえば、アンデルセン童話の「裸の王様」を読んだなら、次のような問いを立てて自分なりに答えを作ってみましょう。
- 仕立て屋や家来、最後の場面で登場する子どもはそれぞれどんな役割を果たしているか?
- 「見えない布地」や王様が裸であることはそれぞれ何を意味しているのか?
- 「裸の王様」は何を伝えたかったのか?
物語文の主題を捉える勉強では、心情表現が直接書かれているライトノベルなどは教材になりません。宮沢賢治の童話のような、少し考えないと理解できない物語文を読む必要があります。
麻布中国語は時間をかけて対策する
麻布中国語は、長めの文章を本文とする大問1つを出題する武蔵中国語と対照的です。本文から言葉を拾い集めるだけはなく、さらに解釈や推測が求められるので、難易度が高いといえます。
麻布中国語は短期で対策するのが難しいでしょう。じっくり時間をかけて、本文の読み方と問題の解き方の両方を鍛えることが、遠回りなようで近道です。
トップ画像=写真AC
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