評論文などの論理的文章では対比がよく使われます。本記事では、対比のある文章を上手に要約するコツを解説します。
対比とはどのような表現か?
対比とは、二つのものを比べて、その違いをはっきりさせることです。「一方」「他方」「それに対して」などの言葉が対比の目印になります。
次の文章では、アメリカと日本が対比されています。
アメリカでは、自分の意見をはっきり言うことが大切にされます。一方、日本では、強い自己主張は好まれません。なぜなら、集団の雰囲気が大切にされるからです。
この文章のように対比がある場合、文章中の説明が、対比されているもののどちらに当たるのかを意識しましょう。たとえば、「集団の雰囲気が大切にされる」のは、アメリカではなく日本です。
対比のある文章を要約する
次の文章を読んで、あとの問に答えましょう。
遺伝子は、生物としての特徴を親から子へと伝えるものです。この遺伝子に手を加えた動植物から作られるのが「遺伝子組み換え食品」です。
遺伝子組み換えの目的は、病気や害虫に強くて品質の高い農作物を開発することです。品種改良も同じ目的で昔から行われてきました。しかし、両者には違いがあります。
品種改良では、野生の動植物の中から優良なものを選んで育てることで、人間に役立つ農作物を作ります。一方、遺伝子組み換えでは、動植物の遺伝子を直接操作します。異なる生物同士の遺伝子を組み合わせれば、自然界では絶対に存在しない動植物も作れます。
遺伝子組み換えは品種改良に比べて歴史が浅いため、賛否両論があります。
賛成派は、農作物を育てるのが楽になって収穫量が増えるのは、人類にとって大きなメリットだと考えます。一方、反対派は、安全性への不安を訴えます。遺伝子組み換え食品が健康におよぼす影響がよく分かっていないからです。
また、自然環境への影響についても議論があります。強力な動植物が作られると、それが他の動植物を絶滅させるかもしれません。反対派は、このことを心配します。一方、賛成派は、遺伝子組み換えによって農薬を使う量が減るので、むしろ環境に優しいと主張します。
賛成派と反対派のどちらが正しいかは、現在ではまだはっきりとしません。だからこそ、遺伝子組み換えについて、一人一人がしっかり考えるべきなのです。問一、遺伝子組み換えと品種改良について、次の問いに答えなさい。
(1) 遺伝子組み換えと品種改良に共通する目的を、文章中から二十四字で抜き出しなさい。
(2) 遺伝子組み換えと品種改良の違いを、文章中の言葉を使って六十字以内で書きなさい。
問二、遺伝子組み換えについて、賛成派と反対派はそれぞれどのように考えるか。文章中の言葉を使って百二十字以内で書きなさい。
抜き出し問題の解法
問一の(1)は、今回のメインテーマである「対比」とは関係ないので、サクッと解説してしまいます。
問題文中に「目的を…二十四字で抜き出しなさい」とあるので、答えるべきものは「目的」。したがって、本文中から「目的」という言葉を探します。
2段落第1文に「遺伝子組み換えの目的は…」とあり、第2文にも「品種改良も同じ目的で…」とあります。そのため、「遺伝子組み換えの目的は…」の後から二十四字の言葉を抜き出します。
(解答)病気や害虫に強くて品質の高い農作物を開発すること
記述問題の解法(基本)
問一の(2)は、対比のある文章を要約する記述問題です。
問題文中に「遺伝子組み換えと品種改良の違いを…書きなさい。」とあるので、答えるべきものは「遺伝子組み換えと品種改良の違い」です。したがって、本文中から「違い」という言葉を探します。
第2段落最終文に「両者には違いがあります」とあり、「違い」の具体的な説明は第3段落に書かれています。第3段落では、「一方」という接続詞の前で「品種改良」について、その後ろで「遺伝子組み換え」について説明しています。このことをふまえて、答案作成に必要な要素を取捨選択していきます。
「品種改良」について説明されている第3段落1文は、「野生の動植物の中から優良なものを選んで育てる」と「人間に役立つ農作物を作ります」の2つの要素に分かれます。「人間に役立つ農作物を作ります」という要素は「遺伝子組み換え」にも共通するので、「違い」を説明する答案からは除きます。
一方、「遺伝子組み換え」について説明されているのは第3段落2文です。これらの文の中から、「野生の動植物の中から優良なものを選んで育てる」に対応する表現を探します。これが「動植物の遺伝子を直接操作します」です。続く文(「異なる生物同士の…も作れます。」)は、遺伝子を直接操作することの一例なので、「具体例は解答にならない」という鉄則通り無視します。
要素の取捨選択が終わったら、答案の形式を考えます。問題文には「遺伝子組み換えと品種改良の違い」と書かれているので、答案も「遺伝子組み換えは…だが、品種改良は~だという違い。」とまとめます。対比をまとめる問題では、多くの場合、接続は逆接です。そのため、「…だが~」という形にします。また、「違い」を答えなければならないので、答案の文末も「~違い。」で結びます。
「遺伝子組み換え」と「品種改良」の説明の順番は逆でも構いませんが、問題文が「遺伝子組み換え→品種改良」の順なので、答案構成も「遺伝子組み換え→品種改良」の順にした方が良いでしょう。
以上をふまえて答案をまとめると、次の(解答例)になります。
(解答例)遺伝子組み換えは動植物の遺伝子を直接操作するが、品種改良は野生の動植物の中から優良なものを選んで育てるという違い。
記述問題の解法(応用)
問一の(2)は、1つの段落の内容をまとめるだけでした。しかし、問二は、複数の段落の内容をまとめる必要があります(字数的にそう考えましょう)。そのため、難易度が少しアップしますが、原理原則から考えれば決して難しくありません。
問二の問題文は「遺伝子組み換えについて、賛成派と反対派はそれぞれどのように考えるか」なので、「遺伝子組み換えに対する賛成派と反対派の考えの違い」が答えるべきものだと分かります。したがって、「遺伝子組み換えは…賛否両論があります」と書かれている4段落以降から、「賛成派」「反対派」という言葉をそれぞれ探します。
第5段落の2文は「賛成派は…。一方、反対派は、~」と書かれているので、「一方」の前後から「賛成派」「反対派」それぞれの要素を集めます。
「賛成派」の主張は「農作物を育てるのが楽になって収穫量が増える」です。一方、「反対派」の主張は「安全性への不安」ですが、これだけでは漠然とし過ぎています。「安全性への不安」を詳しく説明しているのは第5段落最終文で、「遺伝子組み換え食品が健康におよぼす影響がよく分かっていない」ことが「不安」の原因とされています。したがって、「健康におよぼす影響がよく分かっていないため安全性に不安がある」とまとめます。
続く第6段落は、「自然環境への影響」に関する議論です。この段落も、「一方」の前後をそれぞれまとめます。「反対派は、このことを心配します」という第6段落第3文の指示内容は第6段落第2文なので、「反対派」の主張として「強力な動植物が作られると、それが他の動植物を絶滅させるかもしれません」を要素として抜き出します。一方、第6段落第4文は「賛成派」の主張は、「遺伝子組み換えによって農薬を使う量が減るので、むしろ環境に優しい」です。
以上をまとめると次の表のようになります。
人類にとってのメリット・デメリット | 環境への影響 | |
---|---|---|
賛成派 | 農作物を育てるのが楽になって収穫量が増える。 | 農薬を使う量が減るので環境に優しい。 |
反対派 | 健康におよぼす影響がよく分かっていないため安全性に不安がある。 | 強力な動植物が他の動植物を絶滅させるかもしれない。 |
問題文には「遺伝子組み換えについて」とあるので、答案をまとめる際は「遺伝子組み換え」という言葉を入れなくてOKです。「遺伝子組み換え」という言葉を入れて字数稼ぎするのではなく、必要な要素を過不足なく盛り込むことが大切です。
こうしてまとめたのが、次に(解答例)です。字数が120字あるので、1文にまとめるのではなく、2文に分けました。それぞれの文は「人類にとってのメリット・デメリット→環境への影響」という順番で要素を並べています。
「賛成派は…だが、反対派は~。そして、賛成派は■■だが、反対派は▲▲。」と書く生徒が多いですが、これは良くない書き方です。「賛成派」「反対派」それぞれをまとめて、「賛成派は…で、■■。一方、反対派は~で▲▲。」と書くとすっきりします。
(解答例)賛成派は、農作物を育てるのが楽になって収穫量が増えるのはメリットであり、農薬を使う量が減って環境に優しいと考える。一方、反対派は、健康への影響が分からないため安全性に不安があり、強力な動植物が他の動植物を絶滅させるかもしれないと考える。
字数の多い記述問題も簡単に書ける
今回の問題は、「対比をまとめやすいように」という配慮のもとで僕が作ったオリジナル問題です。そのため、あまり難しくなかったと思います。
一方、実際の入試問題では、答案に盛り込むべき要素の取捨選択や要素の論理関係を文章化する段階で、もう少し工夫が必要になることでしょう。しかし、対比のまとめ方は今回の問題と同じです。
「答えるべきものを把握する→ヒントとなる言葉を探す→解答の要素となる部分を抜き出す→要素の論理関係を考える」という順番で取り組めば、字数の多い記述問題も簡単に書けるようになります。
トップ画像=写真AC
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