麻布中入試の2023年社会は、「公共のものをどう維持していくか?」をテーマとした地理・歴史・公民・時事の融合問題でした。思考力を試す問題が増えた大学入学共通テストを意識した出題傾向がみられます。
麻布中社会に特徴的な長いリード文
麻布中入試の社会は、数ページにわたる長いリード文が特徴的です。2023年は3ページ以上ありました。
2023年のリード文では、教室の掃除当番という身近な話題から公共のものの維持へと話題が広がり、上下水道を具体例として議論が進みます。宮城県(仙台藩)の事例が取り上げられますが、海外の事情や国鉄民営化の経緯なども挿入されます。
このリード文を最初から最後まで読まなくても解ける設問がほとんどです。しかし、設問によってはリード文の内容がヒントになることがあるので、時間と労力を惜しんで飛ばし読みするのはやめた方がよいでしょう。
制限時間50分で設問数は15問前後なので、焦って解く必要はありません。
麻布中社会の出題傾向
麻布中入試の社会では、大問1問の中に地理・歴史・公民・時事の設問が混ざっています。また、それぞれの設問は大きく次の3種類に分かれます。
- 知識問題
- 資料読み取り問題
- 自分の意見や考えを説明する問題
1以外は記述式が原則です。3以外は字数制限のない空欄が与えられ、その中におさまるように記述する必要があります。
1. 知識問題
空欄補充や記号選択などの知識問題は基本的な語句がほとんどです。とはいえ、問1(2)は、人間の排泄物が肥料として利用されていたことを知らないと解けません。重要語句だけなく、いわゆる「常識」を知ってるかどうかを問われます。
問7では、各省庁の役割の本質を知らないと難しかったでしょう。たとえば、厚生労働省は国民の健康や医療、福祉などに関連する業務を担います。新型コロナウイルス関連のニュースでよく登場するのが厚生労働省です。「上水道の水質=厚生労働省」とすぐに結びつかなくても、リード文に「飲料水の衛生環境が悪くてコレラが流行した」という内容の記述があることがヒントとなります。リード文は知識問題を解く上でも参考になります。
2. 資料読み取り問題
純粋に資料を読み取るだけの問題と、知識と結びつけて解釈する問題に分かれます。
純粋に資料を読み取るだけの問題の例は問8です。都市化が進む前と後の図をじっくり見くらべ、何が違うのかを言葉にします。違いの1つめは線路ができたことですが、水道整備とは関係なさそうです。2つめは、駅に向かって幹線道路が伸び、その周辺に市街地が広がったことです。市街地では水道整備が必要ですから、これの何が問題なのかを掘り下げます。市街地がA市とB市にまたがっていることに気づければ、解答の方向性も決まってくるでしょう。
一方、知識と結びつけて解釈する問題の例は問5です。ガラスや洋酒、石炭などの具体的な事物が明治時代の日本社会とどう結びつくのかを理解していないと、的外れな解答になってしまいます。
3. 自分の意見や考えを説明する問題
問11は、個人の問題を「みんな(=国・地方公共団体など)」で解決する仕組みについて考え、自分なりの意見を100~120字で説明する問題です。
四谷大塚は解答例として、奨学金と子どもの貧困(子ども食堂)を挙げています。どちらもここ数年話題となっていることなので、新聞やニュースをチェックしている受験生なら思い付くでしょう。
字数が多いので、「経済的な理由から進学をあきらめる学生を救うため奨学金制度を設ける。」で終わりにせず、奨学金制度の財源をどうやって確保するのかといった具体性が必要です。
麻布中社会対策となる勉強法
予習シリーズなどの参考書に載っている最低限の知識を覚える必要はあります。しかし、知識の丸暗記だけでは麻布中入試の社会で合格点をクリアするのは難しいでしょう。
それぞれの設問に合わせた勉強法を紹介します。
1. 知識問題のための勉強法
参考書で太字部分だけを覚えるのではなく、それ以外の文章やコラムなどにも目を通し、「常識」を増やしていくとよいでしょう。
また、資料読み取り問題でも知識を活かす場面があるので、「文明開化」「殖産興業」といった重要語句を抽象的に覚えて終わりにするのではなく、これらの語句を具体的な事物と結びつけていく勉強法が有効です。
2. 資料読み取り問題のための勉強法
純粋に資料を読み取るだけの問題の対策としては、日ごろから図や表、グラフなどの資料の特徴を言葉で表す訓練をするとよいでしょう。とくに、複数の図を見比べて、同じ点や違う点を的確に説明できるようにしたいところです。
まずは、普段の勉強で使っている参考書に掲載されている資料を説明できるようにします。慣れてきたら、新聞などに掲載されている図や表、グラフなどを同じように説明する練習をしましょう。
言葉で表すときは、見たものを見たまま言うのが出発点です。たとえば、「1990年は68%だったが、2000年は43%になった→10年で割合が小さくなっている」というレベルです。勉強熱心な受験生ほど難しく考え過ぎることがあるので要注意です。
3. 自分の意見や考えを説明する問題のための勉強法
日ごろから新聞やニュースなどで話題となっていることをチェックし、それに対する自分の意見や考えをまとめます。ただし、小学生が思いつくレベルの意見や考えだと幼稚になるので、専門家の見解や社説の結論などをパクりましょう。
また、社会問題を解決するための仕組みや取り組みを考える場合、大抵は公平性や財源などが一筋縄ではいきません。これらも視野に入れた意見や考えが必要なので、反対意見も考えるようにしたいところです。
たとえば、子ども食堂の運営であれば、反対意見としては「運営資金を調達するのが難しい」「子ども食堂を利用できる子どもと利用できない子どもで不公平が生じる」などが考えられます。これらの意見にどう反論するかまで考えることが大切です。
麻布中社会の対策は授業だけでは難しい
麻布中入試の社会は融合問題であるため、塾や学校が行う分野別の授業だけでは対策が難しいといえます。授業などで一通り知識を覚えた後は、自分なりに知識を整理し、関連付けながら、意見や考えをまとめていくとよいでしょう。
近年、自主学習ノート(家庭学習ノート)を宿題にする小学校が増えています。こうした宿題を軽視し、やっつけで終わらせる中学受験生も少なくありません。しかし、麻布中を志望するのなら、自主学習ノートを利用して、麻布中入試の社会対策を行うのも効果的でしょう。
トップ画像=写真AC
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