都立高校入試社会は知識が多ければ高得点になるとは限りません。
歴史分野も、「社会は暗記だ」と考えて年号や人名などを一問一答形式で覚えるのは、必ずしも効果的な勉強法とはいえません。むしろ、暗記重視の勉強法は点数に結びつかないでしょう。
本記事では、「歴史の暗記に時間をかけているのに、模試や過去問では全然点数を取れない」と悩む受験生に向けて、都立高校入試社会の歴史の勉強法を紹介します。
都立高校入試社会の歴史分野の出題傾向
都立高校入試社会の歴史分野の出題傾向を分析します。まずは、平成23年の大問4[問1]を見てみましょう。
「農具は人々に利用され改良が加えられることで、食物の生産に大きな役割を果たしてきた。」とあるが、鎌倉時代の農具の利用について述べているのは、次のア~エのうちではどれか。
ア 月に3回開かれる定期市で鍛冶職人が作った農具も売られるようになる中で、荘園領主や地頭の支配下にある農村などでは、農民が鍬や鋤、鎌などの鉄製農具を利用して農作業を効率的に進めた。
イ 大陸や朝鮮半島から稲作が伝えられて九州から東日本へと広がる中で、農民は木製の鍬や鋤を耕作に利用したり、石包丁を利用したりして生産量を増やした。
ウ 墾田永年私財法が定められ土地の開発が奨励される中で、貴族や寺社は朝廷の下で働く技術者集団などが作った鉄製農具を支配下の農民に利用させ、開墾を行って私有地を広げた。
エ 農業技術書などによって近畿地方などの進んだ農業技術が各地に広まる中で、農民は土地を深く耕すことのできる備中鍬や、脱穀に用いる千歯こきなどを利用して農作業を効率的に進めた。
都立高校入試社会は記号選択問題がほとんどです。しかし、他県の記号選択問題とは大きく違います。
選択肢の文章は長いが内容は正しい
選択肢の作られ方に次の独特の傾向があります。
各選択肢の文章は長いが、内容は正しい。
選択肢の文章が長いと「難しい」という印象を与えます。しかし、実際は逆です。長い文章にはたくさんヒントが盛り込まれているからです。
アの選択肢の時代は、「月に3回開かれる定期市」か「地頭」のどちらかを知っていれば鎌倉時代と判定できます。したがって、正解はアです。「定期市」や「地頭」について詳しく説明できる必要はありません。
他県の歴史の問題だと、たとえば「織田信長は、支配した土地に太閤検地を実施した。」という誤った内容の選択肢を見かけます。
しかし、都立高校入試社会の歴史では、各選択肢の内容が正しいので、「地頭→鎌倉時代」のように、各選択肢の正誤を気にせず時代を判定するだけで大丈夫です。(今後傾向が変わる可能性はあります)
歴史の大まかな流れを問われる
都立高校入試社会の歴史では、次の形式の問題も出題されます。
- 時期を選ばせる問題
- 時代順に並べ替える問題
「ア~エの時期のうちではどれか」「時期の古いものから順に記号を並べよ」という形式からも分かる通り、都立高校入試社会の歴史では、細かい知識ではなく、歴史の大まかな流れを問われます。
たとえば、源頼朝が行った政治をすべてきちんと覚えている必要はありません。源頼朝と結びつくキーワードを連想できて、そこから「鎌倉時代」を導ければ十分です。
都立高校入試社会の歴史分野の勉強法
都立高校入試社会の歴史分野の出題傾向が分かれば、点数につながる効果的な勉強法も分かります。
すべての選択肢を時代順に並べる
平成23年の大問4[問1]は、正解のアを選んで終わりにしてはいけません。正解できたかどうかよりも、その選択肢を選んだ理由を明らかにした上で、他の選択肢の時代も検討することの方が大切です。
過去問や模試を使って自学自習するときは、次のことを行いましょう。
- 各選択肢で時代を表すキーワードに○を付ける。
- すべての選択肢を時代順に並べる。
これらを平成23年の大問4[問1]で実際に行うと次の通りです。
ア 「月に3回開かれる定期市」「地頭」 → 鎌倉
イ 「稲作」「木製の鍬や鋤」「石包丁」 → 弥生
ウ 「墾田永年私財法」 → 奈良
エ 「農業技術書」「備中鍬」「千歯こき」 → 江戸
したがって、時代の古い順にイ→ウ→ア→エ
歴史の教科書を活用する
時代を表すキーワードが分からなかったり、すべての選択肢を時代順にならべられなかったりする場合は、歴史の教科書を活用しましょう。索引でキーワードを調べ、付録の略年表で時代を確認します。
過去問や模試のすべての歴史の問題で、すべての選択肢を時代順に並べましょう。そのたびに教科書を何度も見直し、頭の中に歴史の流れを叩き込みます。「教科書の●●時代に『▲▲』というキーワードが載っていた」を瞬時に思い出せるようになるのが理想です。
このように過去問や模試と教科書を使った勉強法が最も効果的です。
都立高校入試社会の歴史分野のノートまとめ
社会の歴史に限らず、勉強法としてノートまとめは無駄になりがちです。しかし、都立高校入試社会の歴史分野を勉強する場合はノートまとめをするのがおすすめです。
平成16年の大問4[問3]を例として、何をどのようにノートに書くべきかを説明します。
Cさんは、服装の歴史について調べた。服装には時代の特色が反映されていることがわかった。次の文章は、Cさんが服装の歴史を調べるために読んだ、外国人による日本研究の本の一部を抜き出して書き改めたものである。この文章が書かれた時代の人々の服装について述べているのは、下のア~エのうちではどれか。
○衣服は、ゆったりしていて、着衣が素早くできる。この長い幅広の着物は、日本国民の日常着である。性別、年齢により違いがある。
○儀礼用の衣服(裃)は、幕府へ参上するような機会に使用される。
○人々は、この国に極めて豊富にあって一般に売られている木綿地を使う。
ア 官営工場がつくられたり、鉄道が開通したりするなど文明開化が進むなかで、軍人や役人の制服として洋服が採用されたことなどをきっかけに人々の洋装化も進んだ。
イ 藤原氏が実権を握り摂関政治が展開されたころ、貴族たちは、男性は衣冠や束帯、女性は十二単と呼ばれる日本風の文様やデザインの絹織物を身につけていた。
ウ 菱垣廻船や樽廻船などにより江戸と大坂を結ぶ流通が活発になり、諸産業が発達するなかで、豊かになった町人の中には西陣織や友禅染など高級な衣服を着る者もあらわれた。
エ 稲作や金属器が普及し、いくつかの小国の連合が形成されたころ、男性は幅広の布を結び合わせた衣服を、女性は布の中央に穴を開けて頭を通す衣服を着ていた。
歴史の大雑把な区分をノートに書く
まずは、次のまとめをノートに書きましょう。
【時代 最高権力者―権力層―政治の場】
- 飛鳥~平安 天皇―貴族―朝廷
- 鎌倉~江戸 将軍―武士―幕府
- 明治~昭和 天皇―役人―政府
この大雑把な区分を覚えた上で、平成16年の大問4[問3]を検討します。
○の付いている文章の中には「幕府」という言葉が入っています。そのため、「鎌倉~江戸」の説明であると分かります。歴史の教科書に登場する幕府は「鎌倉幕府」「室町幕府」「江戸幕府」の3つだけだからです。
次に、アには「役人」とあるので「明治~昭和」、イには「貴族」とあるので「飛鳥~平安」です。したがって、アとイは冒頭の文章の説明から外れます。
最後に、ウに「江戸」とあるので、「江戸幕府」を連想して、正解はウと判断します。
ちなみに、エは「小国の連合」とあるので、天皇が強い権力を握る以前の話です。「稲作」という言葉から弥生時代を連想しましょう。エは、ノートにまとめた大雑把な区分から外れます。
各時代とキーワードをひもづける
平成16年の大問4[問3]で正解するだけなら、大雑把な区分をノートに書けば終わりです。しかし、それだけだともったいないので、もう少しノートまとめを続けましょう。
「縄文」から「令和」までの各時代を縦に書き、横を「人物」「政治」「外交」「産業」「文化」に分けます。さらに。それぞれの時代には、各選択肢のキーワードを付け加えていきます。
平成16年の大問4[問3]の場合、アの「文明開化」を「明治」の「文化」に、イの「藤原氏」と「摂関政治」を「平安」の「人物」と「政治」に、ウの「樽廻船」「菱垣廻船」を「江戸」の「産業」に、エの「稲作」を「弥生」の「産業」にそれぞれ書き込みましょう。
このように、過去問を解くたびに、ノートにキーワードをどんどん書き足していきましょう。
キーワードの細かい説明は省略します。キーワードの内容がよく分からなくとも、時代にひもづけられればOKです。
ただし、近現代史は知識が細かくなります。そのため、キーワードをノートにまとめるだけでなく、ストーリーとして出来事の流れを理解することをおすすめします。詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
都立高校入試社会の歴史分野の整理
ここまでで紹介した勉強法で、できるだけ多くの過去問の歴史分野を整理しましょう。このとき便利なのが、都立高校入試の過去問が10年分収録されている「高校入試 虎の巻」です。
整理してみると、同じような内容の選択肢が何度も出題されていることに気づくでしょう。
たとえば、「千歯こき」は、「いいかげんにしろ」と言いたくなるくらい出てきます。中学社会の歴史の範囲は狭いので、同じような問題の使い回しになっています。
時代を表すキーワードをまとめたノートは、入試本番まで何度も見直せるオリジナル参考書となります。他に参考書や問題集は要りません。
都立高校入試社会の歴史は過去問(模試)と教科書だけで十分に対策できます。塾や家庭教師に頼らないで自学自習することも可能です。
トップ画像=パブリックドメイン 世界の名画 / 歌川国芳《壇浦戦之図》
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