ある中学入試理科の問題で、次の問題が出題されました。
ヒトの血液の色と同じ色ではない生物を、次のア~エの中から1つ選び、記号で答えなさい。
ア.ニワトリ イ.マムシ ウ.カツオ エ.スルメイカ
本記事では、この問題で問われている「イカの血の色」から話を広げていきます。
イカの血は何色?
雑学豊富な受験生ならば「エ」と即答できるでしょう。なぜなら、イカの血は青色だからです。
では、「イカの血は青色」と知らない受験生はどうすべきでしょうか?
ここで生物の分類に関する知識が生きてきます。
ニワトリは鳥類、マムシはハ虫類、カツオは魚類です。これらの生物は全て、ホ乳類であるヒトと同じせきつい動物に分類されます。一方、スルメイカはせきつい動物ではなく軟体動物です。
せきつい動物は、背骨を中心とした骨格を持ちます。ニワトリやカツオの骨は、食卓でも目にする機会があるでしょう。ヘビもクネクネしていますが、立派な骨を持っています。一方、軟体動物には骨格がありません。ただ、太くて硬い骨が無いだけで、軟骨はあります。
このように選択肢を分類すると、スルメイカだけが仲間外れです。したがって、「スルメイカの血は赤くないのだろう」と推測してエを選べるはずです。
一見すると「全く知らない」ことを問われた場合でも、頭の中にある知識を総動員して、何らかの理屈に基づいて考えることが大切です。
イカの血が青いのはどうして?
正解を選ぶだけなら簡単ですが、動物の血の色について、もう少し考えましょう。
そもそも、せきつい動物の血が赤いのはどうしてでしょうか?
せきつい動物の血には、血液中の赤血球にヘモグロビンが含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担います。このとき酸素と結びつくのが鉄です(血を舐めると鉄の味がしますよね?)。鉄は酸素と結びつくと赤くさびます。せきつい動物の血が赤いのは、ヘモグロビンの鉄がさびて赤くなっているからです。
一方、軟体動物の血には、ヘモシアニンが含まれています。ヘモシアニンもヘモグロビンと同じく酸素を運びますが、ヘモグロビンと違って銅を含みます。銅は酸素と結びつくと青くさびます。軟体動物の血が青いのは、ヘモシアニンの銅がさびて青くなっているからです。
ちなみに、イカやタコなどの軟体動物だけでなく、エビやカニなどの節足動物も血の色は青です。また、ホヤの血液には、バナジウムを含むヘモバナジンが流れているため、色は緑です
「さびる」ってどういうこと?
鉄はさびると赤くなり、銅はさびると青くなります。このような金属のさびの色が血の色になります。
この「さびる」という現象について更に掘り下げてみましょう。
物質が酸素と結びつくことを「酸化」といいます。金属がさびるのは、金属が酸化したことを意味します。
鉄が酸化すると酸化鉄になります。この酸化鉄には2種類あります。
日常生活で鉄が徐々に酸化すると、「赤さび」と呼ばれる酸化鉄(Ⅲ)(Ⅲが付きます)になります。赤さびは、鉄を腐らせてボロボロにします。塩分や酸があると酸化の進行が早まるので、海の近くにある鉄はさびやすくなります。ヘモグロビンは赤さびに近い色です。
一方、鉄を火であぶると表面が黒くなる反応も酸化です。このときにできる黒い物質は「黒さび」と呼ばれる酸化鉄(Ⅱ)(Ⅱがつきます)です。黒さびは赤さびと違って、鉄の表面を覆って内部が腐るのを防ぎます。
ちなみに、繊維状の鉄はスチールウールと呼ばれ、たわしとして利用されます。スチールウールを加熱すると熱や光を放ちながら激しく酸化します。この反応を「燃焼」といいます。
銅が酸化すると酸化銅になります。この酸化銅は「青さび」または「緑青(ろくしょう)」と呼ばれます。十円玉が青くなるのは青さびが発生したからです。青さびは銅の表面を覆って内部が腐るのを防ぎます。この性質を利用するため、屋根に銅板を使用したり、給水管や配水管が銅製だったりします。また、特有の色は芸術作品などにも利用されています。ブロンズ像が青いのはこのためです。
理科を暗記科目で終わらせない
「イカの血の色」を説明するため、動物の分類や血液の性質など、生物分野に踏み込みました。しかし、そこで終わりにせず、「酸化」の仕組みなど、化学分野にも話を広げてみました。
理科は、さまざまな単元の知識が結びついたとき、理解が深まる科目です。また、理科で学んだことと自然現象・日常生活との関連が分かると、「すごい!面白い!」と感じるはずです。
理科を単なる暗記科目にするのはとてももったいないです。受験生には、知識を覚える一方で、その知識をもとにさまざまなことに目を向けてもらいたい、と思います。
トップ画像=Pixabay
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