次の滑車の問題は、多くの中学受験生が頭を抱えます。
重さ8kgのゴンドラがあります。体重40kgの太郎君は、滑車を使ってものが載っているゴンドラを引き上げます。滑車やロープの重さを考えないものとして、次の問いに答えましょう。
(1) 下の図Aは、太郎君がゴンドラを使って重さ40kgの荷物を引き上げて静止させた様子を表しています。このとき、太郎君がロープを引く力は何kgですか。
(2) 下の図Bは、太郎君がゴンドラに乗って自分の体を引き上げて静止させた様子を表しています。このとき、太郎君がロープを引く力は何kgですか。
(1)も(2)も、ゴンドラの重さは変わりませんし、ゴンドラに載っているものの重さも40kgです。そうであれば、太郎君がロープを引く力は(1)も(2)も同じように思われますが……。
実際のところはどうなのでしょうか?
ゴンドラに荷物を載せて引き上げる問題
ゴンドラの問題に限らず、物理の力の問題を考える場合は、次の2つの作業を行います。
- 注目するものを決める。
- 2に働く力を矢印で描き込む。
実際に1と2の作業を行いながら、(1)の問題を解いてみましょう。ただし、中学受験理科の範囲を超えますのでご了承ください。
荷物とゴンドラを分けて考える場合
1の作業では、荷物とゴンドラを分けて考えることにします。その上で、まずは荷物の方から2の作業に移ります。
磁石や電気を考えない場合、ものに働く力は次の2つです。
- 重力(ものの重さ)
- 触れているものから受ける力
それぞれの力を荷物に描き込むと次の通りです。
重力は荷物の重心(左右対称のものなら中心)から下向きに描きます。
一方、荷物に触れているものはゴンドラです。したがって、ゴンドラが荷物を押す力を受けます。この力は矢印の向きがわかりづらいですが、「荷物がゴンドラをぶち抜いて落ちていくわけではないので、ゴンドラが上向きに押し返している」と考えるといいでしょう。
ロープは荷物に触れていないので、「ロープが荷物を引く力」などを描き込んではいけません。
すべての力を描き込んだところで、力の関係を式に表します。荷物は静止している(動かない)ので、力のつり合いから次の式が成り立ちます。
次に、ゴンドラに働く力を描き込むと次の通りです。
荷物と同様に重力を描き込んだ後、触れているものから受ける力を描き込みます。ゴンドラに触れているのは、荷物とロープです。
作用反作用の法則より、荷物がゴンドラを押す力は、ゴンドラが荷物を押す力と反対向きで大きさは等しくなります。
また、ロープがゴンドラを引っ張っているので、ロープがゴンドラを引く力は上向きです。
ゴンドラも静止しているので、力のつり合いの式を立てます。
①を②に代入すると、T=40+8=48(kg)となって、これが、太郎君がロープを引く力です(同じロープを使っているから)。太郎君がロープを引く力は、荷物の重さとゴンドラの重さを合わせた重さです。このことは直感的にもわかりやすいでしょう。
荷物とゴンドラを1つのものと考える場合
太郎君がロープを引く力を求めるだけなら、荷物とゴンドラを1つのものと考えた方が簡単です。
荷物とゴンドラを1つのものと考えると、荷物とゴンドラの重力の和(40+8=48(kg))を考えればよいことになります。また、荷物とゴンドラの間に働く力(N)を無視できます。
その上で、(荷物+ゴンドラ)に働く力を描き込むと次の通りです。
一発でT=48(kg)を求められました。
次のページでは、(2)も同じように考えていきます。
ゴンドラに乗って自分の体を引き上げる問題
(2)は(1)と違って、ロープを引く太郎君がゴンドラに乗っています。このことに注意して力を描き込むことが大切です。
太郎君とゴンドラを分けて考える場合
まずは、太郎君から2の作業をします。力を描き込んだ図は次の通りです。
注意すべきなのは、太郎君がロープを引いているという点です。このロープは太郎君に触れているので、太郎君がロープから受けている力を図に描き込む必要があります。
また、太郎君がロープを引いているからといって、太郎君がロープから受ける力を下向きに描くのは間違いです。
確かに、ロープに注目すれば、太郎君から下向きの力を受けます。しかし、今回注目しなければならないのは太郎君です。ということは、作用反作用の法則から、太郎君は、ロープが受けるのと反対向きで同じ大きさの力を受けることになります。それが図中の「ロープが太郎君を引く力(T)」です。
力のつり合いから、次の式が成り立ちます。
次に、ゴンドラに働く力を描き込むと次の通りです。
こちらは(1)と同じです。力のつり合いの式は次の通りです。
①を変形するとN=40-Tなので、これを②に代入します。
T=(40-T)+8
T×2=48
T=48÷2=24(kg)
(1)で求めたTの半分の力になりました。
また、T=24を①に代入してNを求められます。
24+N=40
N=40-24=16(kg)
この結果から、太郎君の体重を体重計で測ると目盛りが16kgを示すとわかります。太郎君の体重からロープの力を引いた値になっています。
太郎君とゴンドラを1つのものと考える場合
太郎君がロープを引く力を求めるだけなら、太郎君とゴンドラを1つのものと考えて、次の図を描けます。
(太郎君+ゴンドラ)に触れているのはロープだけですが、ロープが2本になっているのがわかります。したがって、T×2=48よりT=48÷2=24(kg)です。
高校物理の知識も正しく理解しよう
(1)と(2)とで結果が異なる理由をきちんと理解するためには、ここまでで見てきたように、高校物理の知識が必要です。
一方、中学受験の問題集などでは、(2)の場合だけ「2か所のロープにかかる力は等しい」「体重計にかかる力の大きさは、太郎君の体重からロープを引く力を引く」などと書かれていて、(1)とどう違うのかの説明がありません。もちろん、そうなる理由も書かれていないため、中学受験生は「えっ?どうして?」と混乱してしまいます。
中学受験生が物理分野を理解できないのは、受験生本人に問題があるわけではありません。本質的な説明を端折って、「これはこうなる」としか書かない問題集などがすべて悪いのです。
高校物理の知識といっても、算数で消去算や逆算などを学んでいる中学受験生なら簡単にわかるはずです。上位校狙いの受験生は、このくらいのことは正しく理解しておきましょう。
「高校内容を知らなくても問題を解ける」とごまかさず、「なぜ?どうして?」を徹底的に追及しようという姿勢が大切です。
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コメント
失礼いたします。この設問の(1)つまり図Aの場合についてですが、「太郎くんの足は床に固定されていて、反作用で太郎くんが浮き上がることはない」という条件がないと、体重40kgの太郎くんは合計48kgの物体を持ち上げることはできないと思いますが、こういった出題の場合その条件があるものとして解答してよいものなのでしょうか。
コメントありがとうございます。
特に断りがない限り、「太郎くんの足は床に固定されていて、反作用で太郎くんが浮き上がることはない」という条件はあるものとして解答してよい、というよりも、あるものとしなければ解答できません。
特別な条件は問題文に明示されるはずなので、そうした条件がなければ、常識的な範囲で考えるしかないのだと思います。
通りすがりさんのおっしゃる通り、明示されていない条件は確かに気になりますよね…
みみずく様
ご回答ありがとうございます。そうですよね。問題文に、「荷物を引き上げて静止させた」とある以上は、「48kgの力を下向きにかけることができる」=「足が固定されている」と想定しなさいということですね。
ちなみにこの記事に目が止まったのは、高校入試の理科の問題で、「次の図の中から、太郎くんが持ち上げらないものを選びなさい」的な問題で、選択肢にこの図Aと同じ状態のものが入っていたのですが、やはり「足が固定されているかどうか」は明示されていませんでした。その問題では図Aと同じ状態のものを選ぶのが正解になっているので、「足が固定されていない」という前提になります。
あまり多くを書くとヒントになってしまうので、出題者も頭を悩ませるところなのかもしれません。駄文失礼いたしました。