小中学生に作文を書かせると、彼らは「先生、もう書くことがありません」と言ってすぐにギブアップします。
彼らは作文のコツを分かっていません。そんな彼らへのアドバイスを公開します。
「うれしい」「悲しい」を連発する小中学生
小中学生の作文指導では、僕は次のように言います。
生徒たちは、「うれしい」「悲しい」などの直接的な心情表現を使いたがります。典型的な作文を見てみましょう。
私は運動会でリレーの選手に選ばれてうれしかったです。当日、走っているときは苦しかったけれども、一位になれたのでうれしかったです。クラスのみんなに「すごいね」と言われてとてもうれしかったです。
小中学生の作文は実際にこのレベルです。例では「うれしい」が3回も出てきます。この生徒は、よほどうれしかったんでしょうね(笑)。
直接的な心情表現はどうしてダメなの?
直接的な心情表現ばかり使うと語彙が限られます。その結果、生徒たちは無意識のうちに同じ言葉繰り返します。
詩や小説では、意図的に同じ言葉を繰り返す「反復法(リフレイン)」という表現技法があります。もしくは相手を自分の思い通りに動かそうというマインドコントロールの場面では、繰り返し同じことを言い続けるのが効果的です(笑)。しかし、作文で繰り返しはNGです。なぜなら次の問題点があるからです。
作文を上手に見せるためには、「うれしい」「悲しい」などを別の言葉に書き換えます。
書き換えの方向性は2パターンあります。1つめは、心情を詳しく書く方法。2つめは、心情を間接的に表す方法。「うれしい」について、それぞれの例を挙げてみます。
【心情を詳しく書く方法】
- 天にも昇る気持ちになった(比喩)
- 「クラスの代表になれたんだ」と誇らしく思えた(具体的な心情表現)
【心情を間接的に表す方法】
- 一気に疲れが吹き飛んだ(状態)
- 思わず笑顔になってしまった(表情や行動)
- 「みんな、ありがとう」と大きな声で言った(言葉)
いろいろあって面白いですね。
「うれしい」を実際に書き換えてみた
以上を踏まえて、実際に前ページの作文を書き換えてみました、
私は運動会でリレーの選手に選ばれました。「クラスの代表になれたんだ」と誇らしい気持ちになりました。当日、走っているときは苦しかったけれども、一位になれたので一気に疲れが吹き飛びました。クラスのみんなに「すごいね」と言われて、思わず笑顔になってしまいました。
太文字が「うれしい」の書き換えです。幼稚だった作文が見違えるほどかっこよくなりました。
僕の指導では、この後「苦しかった」も生徒に書き換えさせます。皆さんなら、どう書き換えますか?
直接的な心情表現を避けると字数稼ぎになる
直接的な心情表現を避けると、文章が具体的になるだけでなく、字数稼ぎができるというメリットもあります。
たとえば、「うれしい」だけだとたった4文字。しかし、「『クラスの代表になれたんだ』と誇らしい気持ちになりました」だと何と28文字!7倍の文字数!
生徒たちは、「字数を埋められません」と悩みます。そんな生徒たちこそ、直接的な心情表現を別の表現に書き換えてみるといいでしょう。あっという間に原稿用紙が埋まります。むしろ、「字数が足りません」と悩むことになるかも(笑)。
形容詞も書き換えよう!
95字だった作文が128字に膨らみました。しかし、都立高校入試のように、200字作文を出題してくる試験ではまだまだ字数が足りません。もっと字数を稼ぐにはどうすればいいのでしょうか?
直接的な心情表現を書き換えた後は、「美しい」「すばらしい」「すてきだ」など、物事の良し悪しを表す形容詞も書き換えてみましょう。1つ例を挙げますね。
彼女は、黒髪に白い肌の美しい女性だった。
いまいちイメージの伝わらない説明的な文ですね。この文を、たとえば次のように書き換えます。
彼女の黒い髪が光を反射してキラキラ輝いている。その髪の間から、透き通るような白い肌がのぞいた。
「美しい」という言葉は使っていませんが、「キラキラ輝く」「透き通るように白い」という表現から、「彼女」の美しさをイメージすることができると思います。
もちろん、小中学生の作文は小説ではありません。「彼女の黒い髪が……」みたいな凝った表現は不要です。しかし、「美しい」と書くのであれば、「何がどう美しいのか?」が伝わるように、具体的に描写することが大切です。
そう考えると、前ページの作文の「すごいね」も書き換えたくなりますよね?「まるでチーターのような走りだったよ」や「クラスの誰も君には敵わないよ」はいかがですか?
書き換え表現を磨くには?
心情表現や形容詞の書き換え表現は、日ごろの勉強や読書などを通してストックされます。作文が苦手な生徒たちは、日常生活の中で気に入った表現に出会ったら、こまめにメモしていくといいですよ。
また、保護者のサポートがあるとありがたいです。たとえば、「遠足が楽しかった」という子どもに対して、「何が楽しかったの?」「そのときどんなことを思ったの?」などと保護者は聞いてみます。すると、子どもは嬉々としてしゃべりまくるはずです。保護者が子どもの「おしゃべり」を上手く引き出していけば、子どもの作文スキルはどんどん向上します。
小論文と異なり、作文は決して難しくはありません。表現の幅が広がれば、どんな生徒でも「作文が得意!」となります。たくさんの生徒たちが作文好きになることを願っています。
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