熊野孝哉さんは、中学受験算数の指導で有名なプロ家庭教師です。その熊野さんが執筆した『熊野孝哉の「比」を使って文章題を速く簡単に解く方法』を紹介します。
「比の解法」は結局のところ方程式に過ぎない
熊野さんが前書きで書いている通り、この本で紹介されている「比の解法」は「方程式と似たような解法」です。求めたい数値を①などとおいて等式を作り、式変形から答を求めているので、方程式そのものといってもいいでしょう。
中学受験算数では、中学数学で学ぶ一次方程式を「マルイチ算」、連立方程式を「消去算」と言いかえて教えます。熊野さんは、この解法をさまざまなタイプの速さや特殊算の問題に適用しています。
僕の家庭教師指導でも、この本に書かれている「比の解法」とほぼ同じ解法をバシバシ教えています。「この解法は、厳密には中学数学で習う方程式だね。でも、中学受験生なんだから、イメージがどうこうとか言ってないで、このくらいの抽象的思考はできるようにしなさい」と受験生に言っています。
『熊野孝哉の「比」を使って文章題を速く簡単に解く方法』の特徴
熊野さんの言う「比の解法」は、オリジナリティーあふれる解法ではありません。しかし、『熊野孝哉の「比」を使って文章題を速く簡単に解く方法』には、「比の解法」を教えてくれる以外にも特徴があります。
手書きの板書風で解説される
解答例はすべて熊野さんの手書きで、線分図や面積図、ダイヤグラムなどの図が豊富です。式だけでなく、「食塩の量についての式を作ると」などの日本語もきちんと書かれています。また、ところどころに「分数をなくすために、分母(5と4)の最小公倍数の20をかける!」といったアドバイスも挿入されています。
こういう点で市販の問題集の解説よりは親切ですが、やや解説が足りないと思われる箇所も目立ちます。算数が得意な受験生や保護者なら「わかりやすい」でしょうが、そうでないと「わかりにくい」となりそうです。
もっとも、このくらいの簡潔な解説は、受験生が自分でノートや記述答案を作っていく際のお手本となります。普段の算数の勉強では、この本に書かれている解説を目指して、途中式などを書くようにするといいでしょう。
複数の解法が載っている
1つの問題について、複数の解法が載っています。たとえば、濃度算(食塩水の濃度)では比の解法、面積図の解法、天秤図の解法が、差集め算では比の解法、面積図の解法、差に着目した解法、ダイヤグラムの解法がそれぞれ紹介されています。
「複数の解法を教えられる先生はすばらしい先生だ」と信じている保護者は、この本を「良書」と評価するでしょう。しかし、複数の解法が役立つかどうかは受験生の能力や意識によります。
算数が得意もしくは好きな受験生にとって、複数の解法は魅力的なはずです。そして、熊野さんはこのような読者層を想定して、後書きで「本書を通じて、1人でも多くの子供たちに、算数の楽しさを感じてもらうことができれば幸いです。」と述べていると思われます。
逆に、算数が苦手もしくは嫌いな受験生にとって、複数の解法は混乱の原因にしかなりません。こちらのタイプの受験生にこの本を利用させる場合、応用性の高い「比の解法」だけをマスターさせるようにして、他の解法は無視した方が賢明です。
算数の底上げをしたい受験生にお勧めの一冊
僕の指導では、『熊野孝哉の「比」を使って文章題を速く簡単に解く方法』に書かれている内容程度のことはすべて教えています。そして、生徒(や保護者)は指導内容をノートなどに書いているはずなので、この本を購入する必要は全くありません。
一方、大手塾などに通っていて算数を底上げしたい受験生には、この本の購入をお勧めします。特に目新しいことが書いてあるわけではありませんが、方程式的な思考を鍛えたり、記述答案を作る上での参考になったりするはずです。
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