多くの学生は受験学年になって「受験勉強で何すればいい?」と悩みます。そして、手探り状態で受験勉強を始めるものの、思うような結果を得られないことも少なくありません。
そんな受験生のために、本記事では受検戦略の立て方をわかりやすく解説します。
配点から考える受験戦略
受験は総合点勝負です。高校入試のような5科目受験では、1科目だけずば抜けて高得点を叩き出せても、他の4科目がボロボロだと合格は厳しくなります。上位校受験であればなおさら「1科目だけ得意」は通用しなくなります。
とはいえ、多くの場合、「全科目を万遍なく底上げしましょう」というのは無理な話です。したがって、勉強の優先順位がとても大切になってきます。
配点が同じ場合
都立高校入試は国語・数学・英語・理科・社会の5科目です。傾斜配点が無い限り、5科目は全て100点満点です。国語・数学・英語の価値と理科・社会の価値が同じです。
したがって、都立高校入試対策では、まずは理科・社会を重点的に勉強するとよいでしょう。理科・社会は、国語・数学・英語よりも短期間で点数を伸ばしやすいからです。
一方、生徒や保護者は「苦手な英語を何とかしたい」と考えるかもしれません。しかし、英語は覚える量が膨大であること、すぐには結果が出にくいこと、入試本番では長文との相性が点数を大きく左右することなどを考えると、受験学年になってから英語を優先的に勉強するのは賢明でありません。
ましてや、苦手な英語の点数と理科・社会の点数が同じくらいボロボロならば、英語の勉強はほどほどにして、知識を詰め込めば点数がアップする理科・社会に時間を割く方がコストパフォーマンスが高いといえます。
配点が同じ科目ならば、短期間で点数を伸ばしやすい科目を優先的に勉強しましょう。
配点が異なる場合
都立高校一般入試では、問題ごとの配点はほとんどが4点か5点です。しかし、英語の英作文は12点、国語の作文は10点、数学の記述問題は7点です。このように配点が異なる場合、配点の高い問題については重点的に勉強します。
英作文や国語の作文、数学の記述問題のように配点が高い問題は、部分点が付く記述問題である場合がほとんどです。こういう問題は満点を狙わず部分点狙いです。とにかく記述問題を白紙にしないことが大切です。
平均点から考える受験戦略
学校によっては、合格者平均や受験者平均を公表します。この平均点が受験戦略の決め手となります。
開成中学を目指すなら算数優先
「中学受験は算数で決まる」という話はよく耳にします。そして、この話は、御三家の1つである開成中学を受験する場合には絶対的に正しいのです。というのも、開成中学が公表している各科目の合格者平均と受験者平均の差は、算数が最も大きいからです。
たとえば、平成29年度。国語の合格者平均は48.2点、受験者平均は42.4点、その差は5.8点です。一方、算数の合格者平均は54.8点、受験者平均は40.1点、その差は14.7点です。ちなみに、理科や社会についても、合格者平均と受験者平均の差は5点から6点くらいです。この結果から、開成中学の合格不合格を大きく左右するのが算数だと分かります。
しかも、開成中学の算数は、式や図なども書かせる記述問題です。これは、最終的な答が間違っていても、途中の考え方に部分点が与えられるということです。最終的な答しか求められないことの多い中学入試の中で、開成中学は「部分点を与えて、受験生の実力を正確に評価しよう」という姿勢を貫いています。このような採点方針が、合格者平均と受験者平均の差にもしっかり表れていると考えられます。
以上より、開成中学を目指す受験生は、算数に最も力を入れるべきです。国語・理科・社会は、きちんと勉強した受験生間では大きく差が開かないでしょう。したがって、「算数が苦手だから社会で稼ぐ」のような戦略は通用しません。
早稲田大学を目指すなら数学受験が有利?
大学受験の場合、科目選択をできる場合があります。この科目選択でも、平均点が参考になります。
たとえば、早稲田大学政治経済学部の選択科目について、2016年度の受験者平均点を見てみましょう。素点だけの平均点は、日本史42.126点、世界史43.247点、政治・経済43.797点、数学25.461点です。
数学だけ平均点が異様に低いのが気になりますが、実はこの後、「成績標準化」という点数操作が行われます。結果として地歴・公民と数学との平均点の差が縮小されます。この「成績標準化」によって、満点に近い地歴・公民の点数と5割くらいの数学の点数が同じ価値になることもありえます。
また、早稲田大学の数学には、解答のみを求められる問題と途中式まで採点対象となる問題が混ざっています。したがって、解答のみを求められる地歴・公民に比べて、数学では部分点が付きやすいという特徴があります。
地歴・公民で受験する場合、満点近く得点しないとそもそも勝負になりません。しかし、数学ならば、「あまり解けなかった」という点数でも合格する可能性が高いのです。「数学ができる」もしくは「数学が好き」という早稲田受験生は、数学を選択した方が有利でしょう。
正答率から考える受験戦略
再び都立高校入試に話を戻しましょう。都立高校入試の共通問題では、東京都教育委員会が設問ごとの正答率を公表しています。
たとえば、平成28年度の数学は、大問4の[問2]の2の正答率が4.8%、大問5の[問2]が2.5%です。つまり、ほとんどの受験生が、これらの問題を解けていないということです。
しかも、これらの超難問(?)は各5点で他の問題と同じ配点なので、「大問4と大問5の最後の問題には、初めから手を出さなくていい。都立高校入試の数学は90点満点」と考えるべきです。
このように、正答率が公表されている入試では、「捨て問」を設定できます。受験勉強では、ほとんどの受験生が解けない超難問に時間を割いてはいけません。

受験戦略の精度を高める過去問分析
配点・平均点・正答率を確認したら、次にやるべきことが過去問分析です。過去問は志望校からのメッセージです。「我が校では、こういう方針で、こういう出題をします」と具体的に教えてくれます。
そのような過去問を、入試本番直前に実力テストとして使用するのはナンセンスです。過去問は、本格的に受験勉強を始める前に分析し、志望校の出題傾向を知るために使えば、受験戦略の精度も高くなります。
入試問題の形式と出題範囲
たとえば、大学受験では大学ごとに入試問題が大きく異なります。解答形式だけでも、大きく分けて次の2種類があります。
- マークシート式(客観式):複数の選択肢が与えられていて、受験者はその中から正解を選ぶ試験形式。
- 記述式:空欄やマス目の解答欄が与えられて、受験者はそこに解答を記入する形式。
大学入学共通テストや多くの私立大学で採用しているのはマークシート方式です。一方、国公立大学2次試験では記述式がメインです。
文系と理系で試験問題が全く違う
同じ大学の試験問題でも、文系と理系とで出題範囲や難易度、配点などが違っています。このことを知らずに受験勉強をすると無駄が多くなってしまいます。僕の大学受験を例に見てみましょう。
僕が受験した当時の東北大学は、文系数学の出題範囲が数学ⅠAⅡBだけで、その中でも「数列」と「複素数平面」は除外されていました。一方、「場合の数・確率」はほぼ毎年出題されていました。
僕は、「数列」と「複素数平面」はほとんど勉強せず、「場合の数・確率」の問題を重点的に解きました。市販の問題集を演習する場合、「数列」と「複素数平面」のページは飛ばしました。その代わり、「場合の数・確率」だけを扱った問題集を別に購入して何度も繰り返し解きました。
僕の例からも分かる通り、過去問の分析結果を通して受験勉強のゴールを定めれば、「何を重点的に勉強して、何を勉強しなくていいか?」が明確になります。
模試を受ける前に過去問分析
多くの受験生は、学校や予備校・塾に勧められるまま、よく考えずに模擬試験(模試)を受けます。しかし、このような模試の受け方はとても非効率的です。
模試を受け過ぎることの無駄
模試を受ける目的は、大きく次の3点になります。
- 現時点での自分の実力を把握する。
- 普段とは異なる環境に慣れて、入試本番で緊張しないようにする。
- 受験した模試を復習して、自分の弱点や苦手分野の強化に役立てる。
1と2を重視するならば、模試は、受けられるだけ受けた方がよさそうです。しかし、3まで考慮に入れると、模試の受け過ぎにはデメリットがあるとわかるでしょう。
学力が高くない生徒は、模試の復習にも時間がかかります。それにもかかわらず、毎週模試を受け続けたら、復習の追いつかない模試がどんどんたまっていきます。これでは模試を十分に活用できているとはいえません。
模試の受験料は、どんなに安くても数千円です。無駄な出費を避けるためにも、過去問の分析結果を踏まえて模試を取捨選択することが大切です。
模試の受験計画を立てる
どの模試を受けるべきかという受験計画は、志望校の過去問分析の結果をもとに考えます。
マークシート方式の試験しか受けない予定の大学受験生は、マークシート方式の模試を受けるべきです。記述模試をわざわざ受ける必要はありません。
逆に、国公立大学しか受験しない受験生は、私大模試を受ける意味がありません。また、東大志望の生徒は、各予備校が実施している東大模試を全て受ける一方で、他の記述模試はパスしてもよいでしょう。
模試の結果に一喜一憂しない
学校や予備校・塾などで強制的に模試を受けさせられた場合、自分の志望校に関係ない模試の結果を一切気にしないことです。
マーク方式で点数を取れればいい受験生が記述模試で惨敗しても、「自分に記述力がない」と落ち込む必要はありません。
また、記述式の国公立大学2次試験を受験予定の生徒は、マーク模試の結果がよかったとしてもそこで浮かれてはいけません。特に2次試験の配点比率が高い大学を受験するならば、マーク模試の結果よりも記述模試の結果を重視しましょう。
古い年度の過去問収集
過去問を分析するにも、数年分だけでは不十分です。可能であれば、10年前くらいまでさかのぼって、古い年度の過去問も収集したいところです。
出題傾向の把握=確実な得点
志望校の過去問を何年分も分析すると、出題傾向がはっきりします。特に、出題範囲が狭い高校入試のような試験では、全く同じ問題が繰り返し出題されることもあります。
都立高校入試の社会では、「馬借」「千歯こき」が解答のポイントになる問題が頻繁に出題されます。また、一般入試数学の大問3は、関数のグラフと図形の融合問題でほぼ固定されています。こうした傾向を踏まえた勉強をしておけば、都立高校入試本番で確実に得点できる問題が増えます。

受験生だけでなく、志望校が決まっている非受験生は、早めに過去問分析を始めると、受験学年になったとき楽に受験勉強を始められます。
過去問収集は古書店で
年度をさかのぼって過去問を分析するためには、古書店などを利用して古い過去問を手に入れる必要があります。
ただ、そうした古い過去問は、入手するのがなかなか困難です。収集作業自体にも時間がかかるので、志望校が決まった時点で、古書店などをちょくちょく覗くのがおすすめです。
受験戦略で失敗しないために
配点・平均点・正答率、さらには過去問も公表されているにもかかわらず、受験戦略で失敗してしまう受験生や保護者は少なくありません。失敗の理由は、現実を見ないで感情に振り回されるからでしょう。
たとえば、数学は配点が高くて部分点が付きやすいのに、「自分は数学が苦手」といって他の科目を重点的に勉強する受験生がいます。また、正答率が極端に低い難問を解くことに喜びを見出す受験生もいます。
非受験生ならば、こうした勉強法も有りです。しかし、受験生ならば、「得意・苦手」や「好き・嫌い」という主観的な要素を排除して、配点が高い科目と冷静に向き合うべきです。
「でも、どうしても数学が苦手なんです」という受験生は、他の科目で苦手科目をフォローできるかを考えてください。もし、他の科目で苦手科目をフォローできそうにないのなら、目標設定をそもそも誤っています。どうがんばっても達成できない目標にこだわり続けるのは時間とお金と労力の無駄であり、当然の結果としての不合格は「負の遺産」として後の人生にも悪影響を及ぼします。そうならないために、現実的な志望校にチェンジするのも受験戦略です。
志望校の入試の配点・平均点・正答率を確認し、過去問分析を行った上で受験戦略をしっかり立てることで、受験勉強が志望校合格へと結びつきます。
トップ画像=フリー写真素材ぱくたそ
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